欠けていく世界で、きみの光を見つけた
「菜由〜そろそろ行く〜?」
放課後になってすぐ、パステルカラーのキーホルダーが山ほどついたリュックを背負ったふうかが、席へやってきた。
その手には、黒いファイルに挟まれた楽譜が握られている。
「あっ……ちょっと待って」
運動部の人は足早に部活に向かって行ったけど、それでも教室にも廊下にもまだまだたくさんの生徒が残っていた。
人の波に目を凝らしながら、私はロッカーまで移動してクラリネットのケースを取り出す。
「ごめん、お待たせ」
ケースを片手に席へ戻るとふうかは私の手元を見た。
「また持ち帰って練習してたの?」
「練習しないとついていけないから」
小さく笑う私に、ふうかは「もう」と困ったように眉を下げる。
「何言ってるの。二年生でソロパートも貰ってるくせに」
「それは……クラには先輩がいないから」
小さく言い返すと、ふうかは「それでも」と優しく首を振った。
「本当に下手だったら、ソロは頼めないよ」
にっこりと向けられた笑顔に、胸の奥がくすぐったくなる。
「いっぱい練習してるの先生も見てるんだね」
「そうかな……」
曖昧に笑うと、ふうかは「絶対そうだよ!」と声を弾ませて立ち上がった。
音楽室へ向かうため、ふうかと肩を並べて教室を出ると、ちょうど隣のクラスから三人の男の子が顔を出した。
「よっしゃ部活だー!晴れたから試合できるぞー!」
「泰史、今日こそ点取るぞ!」
「お前らが邪魔しなければな」
サッカー部らしい騒がしい声に、私は思わず歩幅を緩める。
すると、練習着姿の男子たちが次々と廊下へ出てきた。
三番目に、笑いながら出てきた泰史くん。
ふいに視線が合って、私は壁沿いを歩く足を止める。
泰史くんは、私から視線を逸らし、後ろ向きのまま笑っている男子ふたりを、反対側の壁へ押しやるように足を早めた。
「うぉ、なんだよ泰史。急に押すなよ」
「うるせーよ。お前ら前見て歩け」
ぶっきらぼうな言い方なのに、その奥にある優しさに気づいてしまって、胸がきゅっと苦しくなる。
「前?」
泰史くんに押された男子ふたりは振り返り、私とふうかに気付いて、目を丸くした。
「ごめん。ぶつかりそうだった?」
「ううん、大丈夫だよ」
ふうかがふんわりと返すとサッカー部男子は照れたように頭をかく。
その頬がほんのり赤いことにも気づいていなさそうなふうかに、私はくすりと笑ってしまった。
「てかひまりは?もう行った?」
「うん、早々に出て行った〜。早く行かないと怒られちゃうよ」
重ねて尋ねられたふうかがイタズラっぽく笑うと、それぞれが「やべ」と焦った声を出す。
その顔を見る限り、ひまりは、サッカー部の中ではかなり強い立場にいるらしい。
ひまりらしいなとまた小さく笑い、私は再び歩き出した。
その拍子に、少し出っ張った壁に肩がトンっとぶつかる。
「わ」
ふらりとよろめいた私を、前にいた泰史くんが一歩下がって受け止めた。
「……あんま隅歩くなよ」
「う、うん。ごめん。ありがとう」
目の前いっぱいに広がった制服に、胸がどきどきと騒ぎ出す。
「……別に」
泰史くんは、いつも通りのそっけない顔ですぐに手を離し、そのまま男子たちの後を追っていった。
「やっぱ三浦さんって抜けてんのな」
「そんで、泰史は、昔から菜由ちゃんに優しいよな」
「幼なじみなんだっけ?いいよなあ可愛い幼馴染」
「はあ?そんなんじゃねーよ」
先を歩いていく男子たちの声が、途切れ途切れに耳へ届く。
泰史くんはぶつぶつ文句を言いながら、一度だけ振り返ってこちらを見た。
一瞬交わったその目に、ほんのりと優しいものを感じて、私は耐えられず目を逸らした。
放課後になってすぐ、パステルカラーのキーホルダーが山ほどついたリュックを背負ったふうかが、席へやってきた。
その手には、黒いファイルに挟まれた楽譜が握られている。
「あっ……ちょっと待って」
運動部の人は足早に部活に向かって行ったけど、それでも教室にも廊下にもまだまだたくさんの生徒が残っていた。
人の波に目を凝らしながら、私はロッカーまで移動してクラリネットのケースを取り出す。
「ごめん、お待たせ」
ケースを片手に席へ戻るとふうかは私の手元を見た。
「また持ち帰って練習してたの?」
「練習しないとついていけないから」
小さく笑う私に、ふうかは「もう」と困ったように眉を下げる。
「何言ってるの。二年生でソロパートも貰ってるくせに」
「それは……クラには先輩がいないから」
小さく言い返すと、ふうかは「それでも」と優しく首を振った。
「本当に下手だったら、ソロは頼めないよ」
にっこりと向けられた笑顔に、胸の奥がくすぐったくなる。
「いっぱい練習してるの先生も見てるんだね」
「そうかな……」
曖昧に笑うと、ふうかは「絶対そうだよ!」と声を弾ませて立ち上がった。
音楽室へ向かうため、ふうかと肩を並べて教室を出ると、ちょうど隣のクラスから三人の男の子が顔を出した。
「よっしゃ部活だー!晴れたから試合できるぞー!」
「泰史、今日こそ点取るぞ!」
「お前らが邪魔しなければな」
サッカー部らしい騒がしい声に、私は思わず歩幅を緩める。
すると、練習着姿の男子たちが次々と廊下へ出てきた。
三番目に、笑いながら出てきた泰史くん。
ふいに視線が合って、私は壁沿いを歩く足を止める。
泰史くんは、私から視線を逸らし、後ろ向きのまま笑っている男子ふたりを、反対側の壁へ押しやるように足を早めた。
「うぉ、なんだよ泰史。急に押すなよ」
「うるせーよ。お前ら前見て歩け」
ぶっきらぼうな言い方なのに、その奥にある優しさに気づいてしまって、胸がきゅっと苦しくなる。
「前?」
泰史くんに押された男子ふたりは振り返り、私とふうかに気付いて、目を丸くした。
「ごめん。ぶつかりそうだった?」
「ううん、大丈夫だよ」
ふうかがふんわりと返すとサッカー部男子は照れたように頭をかく。
その頬がほんのり赤いことにも気づいていなさそうなふうかに、私はくすりと笑ってしまった。
「てかひまりは?もう行った?」
「うん、早々に出て行った〜。早く行かないと怒られちゃうよ」
重ねて尋ねられたふうかがイタズラっぽく笑うと、それぞれが「やべ」と焦った声を出す。
その顔を見る限り、ひまりは、サッカー部の中ではかなり強い立場にいるらしい。
ひまりらしいなとまた小さく笑い、私は再び歩き出した。
その拍子に、少し出っ張った壁に肩がトンっとぶつかる。
「わ」
ふらりとよろめいた私を、前にいた泰史くんが一歩下がって受け止めた。
「……あんま隅歩くなよ」
「う、うん。ごめん。ありがとう」
目の前いっぱいに広がった制服に、胸がどきどきと騒ぎ出す。
「……別に」
泰史くんは、いつも通りのそっけない顔ですぐに手を離し、そのまま男子たちの後を追っていった。
「やっぱ三浦さんって抜けてんのな」
「そんで、泰史は、昔から菜由ちゃんに優しいよな」
「幼なじみなんだっけ?いいよなあ可愛い幼馴染」
「はあ?そんなんじゃねーよ」
先を歩いていく男子たちの声が、途切れ途切れに耳へ届く。
泰史くんはぶつぶつ文句を言いながら、一度だけ振り返ってこちらを見た。
一瞬交わったその目に、ほんのりと優しいものを感じて、私は耐えられず目を逸らした。