say that you Love me ~晃哉の視点~
sugarでは、今流行りのダンスホールが流れていた。
低音が床を揺らし、グラスの氷がかすかに鳴る。

DJブースからフロアを見下ろすと、唯がいた。
楽しそうに笑っている。
それだけで、目が離せなくなる。

「最近、唯と晃哉さん、いい感じなの?」

大輔の声が聞こえた。
俺は手を止めず、音に集中しているふりをする。

「いや、違うよ。仲はいいけど」

唯の声は軽い。
本当に、ただの事実を言っているだけみたいに。

「てっきり付き合ってるのかと思ってた」

「んなわけないじゃん。歳も違うし、そういうんじゃないよ」

……そう言われると、
なぜか胸の奥が少しだけ沈む。

「あー、よかったぁ。唯狙いの男共が泣いちゃうとこだった(笑)」

「なにそれ」

唯は笑って流した。
いつもそうだ。
自分がどんなふうに見られているか、気づいていない。

「まぁ、確かに。晃哉さんも、そうなれるわけないか……」

その言葉が耳に引っかかったが、
続きを聞く前に話は途切れた。

——何の話だ。

深く考える前に、曲をつなぐ。

唯は澄香と話しながら、グラスを空けていた。
飲むペースが、少し早い。

トイレへ向かう唯の背中を見送ったあと、
俺の近くで男たちがひそひそと話し始めた。

「さっきの子、やばくない?」

「可愛いよな」

その中で、カズの声がはっきり聞こえた。

「可愛い。マジで惚れたわ。
あれは相当可愛いだろ。俺マジ口説こ。」

笑い混じりの声。
軽い調子のはずなのに、胸の奥がざわつく。

——わかるよ。

そう思ってしまった自分に、少し腹が立つ。

唯は、そういう目で見られることに慣れていない。
ただ音楽が好きで、ただそこにいるだけなのに。

……だから、放っておけない。

ショットが配られ、唯は戻ってくるなり一気に煽った。
明らかに飲みすぎだ。

ブースを離れ、壁にもたれて待つ。

トイレから出てきた唯は、少しふらついていた。

「唯、飲みすぎ」

水を差し出す。

「ありがとう、こうちゃん。でも全然大丈夫だよー」

「全然大丈夫じゃないでしょ。明日起きれる?」

「起こしてー」

子供みたいな声。
無防備すぎて、困る。

「よし、帰るよ」

まるで保護者みたいだな、と自分で思う。
でも、それでいい。

車に乗ると、唯の好きな曲ばかりを集めたミックスが流れ出す。

「ダンスホールは踊れるけどぉ、酔いが回るよ(笑)」

楽しそうに笑う横顔を、ちらっと見る。
……この顔を、さっきの男たちに見せたくなかった。

「ねぇ、こうちゃん。
さっきね、隣町でラップやってるって人に話しかけられたんだけど、有名な人?」

「あぁ、カズくんでしょ。CDも出してるよ」

「へぇ!すごいね。でも唯、この音楽の方が好きだなぁ」

そう言って笑う。
何も知らない顔で。

家の近くのコンビニに車を停める。

「唯、なにかいる?」

「んー……こうちゃーん(笑)」

……ずるい。
冗談で無邪気に言ってしまう唯。
素直に言う唯が羨ましくなる。

「適当に買ってくるから待ってて」

家に着く。

「唯、ついたよ」

ふらつく体を見て、手を差し出す。

「ほら」

自然に手を繋ぐ。

「わーい、こうちゃんと仲良しだね」

その言葉が、胸に刺さる。

「はいはい、酔っ払い」

ソファに座り、煙草に火をつける。

「最近、これ喉ひっかかるんだよね」

「マルメンライト?」

「うん。風邪気味でさ」

少し距離を取る。

「移さないでよ(笑)」

「唯、これ吸ってみな?」

「セブンスターのメンソールライト?」

「うん。交換。こっちの方が吸いやすい」

火をつけると、唯が目を丸くする。

「……本当だ! 私、これにしよ」

はしゃぐ姿に、思わず笑ってしまう。

「おそろいだね」

その言葉が、
どんな意味を持つか考えないようにした。

「……これで、どっちかが煙草なくなっても大丈夫だね」

——それ以上は、言えなかった。

繋いだ手の温もりが、
この時間のすべてだった。

守りたい気持ちと、
踏み込めない現実の間で、
ただ、手を離さないようにしていた。

それだけだった。

唯、俺…いつの間にか唯の存在が大きくなっていたんだ…

唯みたいに素直になれたらって何度も思ったんだ。
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