say that you Love me ~晃哉の視点~

「こうちゃん、花火見てる? すっごくキレイだね。お仕事頑張ってね。」

そのメッセージを見たのは、ようやく会社を出られた深夜だった。
今日はこの街で一番大きなお祭りの日。
本当は、唯と一緒に花火を見る約束をしていた。

でも仕事は終わらなかった。
トラブルが重なり、帰れない日が続いていた。

工場の外に出て、夜空を見上げる。
胸の奥が少しだけ痛んだ。

「ようやく一旦帰って来れたよ。会社から花火見た。唯、一緒に見れなくてごめんな。仕事のトラブル続きで、えらい目にあってるわ。落ち着いたら出かけような。」

送信して、時計を見る。
もう夜中の二時だった。

すぐに返事が来る。

「お疲れ様! 花火一緒に見たかったけど、こうちゃん倒れちゃうよ。私は大丈夫。ゆっくり休んでね。」

――優しいな、本当に。
唯は疑うことを知らない。

その優しさが、胸に沁みて、
気づけば電話をかけていた。

「……唯? ごめんな、寝てた?」

自分でもわかるくらい、声が弱っていた。

「なんも大丈夫だよ。こうちゃんお疲れ様。大丈夫?」

「……俺の方言だね、笑。なんも大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ。……花火、一緒に見たかったな。キレイだったね。」

「うん。でも、しょうがないよ。疲れてるのに電話してくれてありがとう。」

何気ないやりとりなのに、
それだけで、張りつめていたものが少し緩んだ。

「唯、今なにしてた? 寝るとこ?」

「音楽聴いてたよ。こうちゃん、ご飯食べた? お風呂入った?」

心配そうな声に、思わず笑ってしまう。

「子供じゃないんだから、笑」

「疲れてそうだから心配だったの! ……ねぇ、こうちゃん。」

少し間があって、唯が言った。

「……こうちゃんの体が心配だし、疲れてるのもわかってる。でも、少しだけ会いたい。五分でもいい。こうちゃんに会いたいな……」

胸が、ぎゅっと締めつけられた。

会いたいに決まってる。
でも、疲れている自分を見せたくなかった。

それでも――

「いつものコーヒーよろしくね。鍵、開けとくから。気をつけて来なね。」

そう言った瞬間、
自分の中で何かがほどけた気がした。

ドアが開いて、唯が入ってくる。
息を切らして、少し照れた顔。

部屋は静かだった。
音楽もかけず、ただ、疲れをやり過ごしていた。

「こうちゃん、コーヒーと栄養ドリンクと……」

「ありがとう。これで足りる?」

テーブルに置いたお金を見て、唯が慌てる。

「多いよ、いらないよ💦 私がわがまま言って来たのに💦」

「そんなわけにいかないしょ。いいから黙って受け取りな? ……てか、唯、すっぴん?」

「……うん💦 見ないで💦 ひどいから💦」

「子供みたいに可愛いな、笑。俺はすっぴんの方が好きだけどな。全然いいっしょ。」

本音だった。本当に可愛かった。
音楽をかけて、隣に座る。

唯と缶チューハイを飲みながら、他愛のない話をする時間。
それだけで、ひどく救われていた。

「ごめんね、こうちゃん。わがまま言っちゃったね……」

「なんもだよ。」

そして、普段はあまり話さない自分のことを、少しだけ話した。

仕事のこと。
孤独を感じること。
疑われること。

「でも、唯は真っ先に俺の心配してくれて……それが嬉しかった。」

そう言った時、
唯の表情が、少し柔らいだ気がした。

「俺、不器用だけどさ。返せる時にはちゃんと返事も返すから。唯は、そのままの唯でいて。」

本音だった。

「こうちゃんに会いたかったから、時間くれてありがとう。大丈夫、もう帰るから。こうちゃん、ゆっくり寝て?」

帰る、と言われた瞬間、
なぜか胸がざわついた。

「……唯、いいから。そこにいて。」

それから一時間ほど話して、
唯が眠そうにあくびをする。

「眠いね。そろそろ寝よっか。今日は本当にありがとう、こうちゃん。」

手を引いて、ベッドに向かう。

「ほら、寝るよ。おいで。」

いつもなら布団を敷くのに、
そのまま一緒に横になっていた。

「こうちゃんの匂いがする……安心する。こうちゃんに会えて嬉しかったぁ……おやすみ……」

唯はすぐに眠ってしまった。

――唯。

「おいで」って言った時、
本当は、自分の方が先に限界だった。

疲れていたからじゃない。
寂しかったからでもない。

唯を、このまま帰したら、
もう二度と同じ距離ではいられなくなる気がして。

唯の体温も、呼吸も、近すぎる距離も、
全部が心地よくて、危うくて、
それでも離したくなかった。

子供みたいだって、ずっと笑ってきた。
無邪気で、疑うことを知らなくて、
ただ真っ直ぐに俺を信じてくれる、その目が。

――怖かった。

この人を、これ以上傷つけたくないって思うのに、
その優しさに、何度も甘えてしまう自分がいた。

突き放せばよかった。
線を引いて、距離を取って、
「今日は帰りな」って言えばよかった。

正しい選択だって、
大人として、男として、
何度も頭の中では分かっていた。

でも――

眠る唯のぬくもりが、
俺の腕の中で小さく呼吸しているのを感じた瞬間、
全部、どうでもよくなってしまった。

今だけでいい。
明日のことは、朝になったら考えればいい。

そんな卑怯な逃げ道に、
何度も自分を押し込めてきた。

この温もりが永遠じゃないことも、
ここが「留まれない場所」だってことも、
最初から、全部わかっていた。

それでも――

今は、離したくなかった。
この夜だけは、
後悔すると分かっていても、
失いたくなかった。

朝になれば、
また何事もなかった顔で、
俺は大人に戻る。

だからせめて、
この夜だけは。

思い出になってしまうと分かっていながら、
唯の温もりを、胸に刻んだ。
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