Good day ! 5
コックピットで順調に準備を進め、地上走行を始める。

キャビンでは、乗客のシートベルト着用の最終確認をしている頃だろう。

するとキャビンからのインターホンが鳴った。

すぐさま翼が応答する。

「コックピット佐倉です」
『L1伊沢です。離陸前に申し訳ありません。男性のお客様がシートベルト着用を拒否され、パイロットに許可をもらえとおっしゃって……』

その時、男性の大きな声がインターホン越しに耳に飛び込んできた。

『キャビンアテンダントだろうが。にっこり笑ってサービスしろよ!』

どうやらドアのすぐ近くに座っているらしい。
別のCAが『お客様。他の方のご迷惑となりますので、お静かにお願いいたします』と話している声がした。

『飛行機に対して恐怖心があるようで、脂汗を浮かべていらっしゃいます。とにかくパイロットに話をしろとおっしゃるので、このように素振りだけでもと思い、ご連絡差し上げました』

そう言う美羽の後ろで、またしても男性が『安全なら、ベルトしなくてもいいだろうがよ!』と騒ぎ始めた。

翼がチラリと倉科の様子をうかがうと、倉科は前を見たまま操縦に専念している。

どうやらこの場の采配は自分に任せられるようだと、翼は表情を引きしめた。

「伊沢チーフ、これはサービスの問題ではなく命の問題だ。シートベルト着用拒否は、航空法上の安全阻害行為に該当する。我々乗務員はお客様の命を守る為に、毅然とした態度で着用を促す義務がある。飛行機が怖いからという理由でベルト着用を免除するのは、根本的に話が違う。それに現時点で不安を抱えていらっしゃるなら、飛び立ったあと更に悪化する可能性が高い。お客様にとってもどうするのがベストか、よく考えてほしい」
『……はい、分かりました』

緊張で声をこわばらせる美羽に、翼は優しく落ち着いた口調で呼びかけた。

「伊沢チーフ、忘れないで。君は一人じゃない。コックピットクルーもキャビンクルーも、全員が君の味方だ」

少しの沈黙のあと、美羽がしっかりと返事をする。

『はい。お客様に納得していただけるよう、お話します。ありがとうございました』
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