踏み切りの鐘は三分間鳴る
「……分かってた、ことだ」
俺は踏み荒らされた花壇を直しながら一人ボヤく。
中学の頃はそれなりにやんちゃしてて、高校に入ってからはそういうのも辞めようと思って真面目の皮を被って生きようとしてた。
美化委員に入ったのだって少しでも大人しい奴を演じる為で、でもいつからか花を育てたりするのは本心から楽しいと思えるようになって、でも牙の抜けた俺に今度は高校デビュー組が絡んでくるようになった。
それがあいつらで、俺は元々堪え性がないから耐えかねてあんな風に啖呵切ったわけだけど。
こんな田舎の高校なわけだから元々俺の中学時代のことを知ってる奴が大半で、すぐにあいつらは俺に声をかけてくることはなくなった。
まぁ俺自身に何かやり返す度胸もなかっただけだろうけど。
それでもこういう嫌がらせは出来るらしい。
教師という立場の人間の虎の威を借る狐、あまりにも下らない。
「あれ? 佐藤くんだよね、こんな時間に何してるの? もう次の授業始まっちゃうけど」
「……あんたには関係ないだろ」
そんな時に声をかけてきたのが相沢だった。
教科書持ってたから多分中休みで移動教室の間。
この頃からいじめられてたのかは、その時は知らなかった。
超が付く程の優等生、俺とは正反対の人間で、それだけ興味のない相手だったから。
「あ、この花壇荒れてる……酷い、なんでこんなことに……」
「どっかの誰かが嫌がらせにしたんだろうけど馬鹿な教師は聞く耳持たずってだけ」
「……それで一人で直してたんだ」
「そ、分かったらとっとと行けば、自分まで遅れるじゃん……って、何してるんだよ」
あいつらにやられたことにまだ腹が立っていて当たり散らす俺を怖がったりすることすらせずに相沢は俺の横に屈み込む。
そして汚れるのも気にせずに持っていた教科書を脇に置いて花壇の土を触りだして
「私も手伝う、後三分くらいしか時間ないけど、少しでも手があったほうがいいよね、次の中休みも手伝いに来るよ」
ただそう言って相沢は笑った。
「……なんでそんなこと、迷惑はかけられない」
「ここ、私のクラスの窓から丁度見えるんだ、だから佐藤くんが毎日大切に手入れしてるの知ってるし、それに教室に居ても良いことなんてないし、佐藤くんが迷惑かけてるって考えちゃうなら私が教室に居なくてもいい口実にしてるだけだと思って、ね?」
呆気に取られて聞き返す俺に相沢はそれだけ言うと土で汚れた手を合わせる。
教室にいなくていい口実、その時は理解出来なかったけど今なら出来る。
「……そういうことに、しとく」
でもそれを知らなかったあの時の俺はただ、そんな仕草をする相沢がかわいいなとかそんなことしか考えられなくて、もしかしたら赤くなっているかもしれない顔を見られない為にそれだけ言ってすぐに花壇のほうを向き直すことしか出来なかった。
俺は踏み荒らされた花壇を直しながら一人ボヤく。
中学の頃はそれなりにやんちゃしてて、高校に入ってからはそういうのも辞めようと思って真面目の皮を被って生きようとしてた。
美化委員に入ったのだって少しでも大人しい奴を演じる為で、でもいつからか花を育てたりするのは本心から楽しいと思えるようになって、でも牙の抜けた俺に今度は高校デビュー組が絡んでくるようになった。
それがあいつらで、俺は元々堪え性がないから耐えかねてあんな風に啖呵切ったわけだけど。
こんな田舎の高校なわけだから元々俺の中学時代のことを知ってる奴が大半で、すぐにあいつらは俺に声をかけてくることはなくなった。
まぁ俺自身に何かやり返す度胸もなかっただけだろうけど。
それでもこういう嫌がらせは出来るらしい。
教師という立場の人間の虎の威を借る狐、あまりにも下らない。
「あれ? 佐藤くんだよね、こんな時間に何してるの? もう次の授業始まっちゃうけど」
「……あんたには関係ないだろ」
そんな時に声をかけてきたのが相沢だった。
教科書持ってたから多分中休みで移動教室の間。
この頃からいじめられてたのかは、その時は知らなかった。
超が付く程の優等生、俺とは正反対の人間で、それだけ興味のない相手だったから。
「あ、この花壇荒れてる……酷い、なんでこんなことに……」
「どっかの誰かが嫌がらせにしたんだろうけど馬鹿な教師は聞く耳持たずってだけ」
「……それで一人で直してたんだ」
「そ、分かったらとっとと行けば、自分まで遅れるじゃん……って、何してるんだよ」
あいつらにやられたことにまだ腹が立っていて当たり散らす俺を怖がったりすることすらせずに相沢は俺の横に屈み込む。
そして汚れるのも気にせずに持っていた教科書を脇に置いて花壇の土を触りだして
「私も手伝う、後三分くらいしか時間ないけど、少しでも手があったほうがいいよね、次の中休みも手伝いに来るよ」
ただそう言って相沢は笑った。
「……なんでそんなこと、迷惑はかけられない」
「ここ、私のクラスの窓から丁度見えるんだ、だから佐藤くんが毎日大切に手入れしてるの知ってるし、それに教室に居ても良いことなんてないし、佐藤くんが迷惑かけてるって考えちゃうなら私が教室に居なくてもいい口実にしてるだけだと思って、ね?」
呆気に取られて聞き返す俺に相沢はそれだけ言うと土で汚れた手を合わせる。
教室にいなくていい口実、その時は理解出来なかったけど今なら出来る。
「……そういうことに、しとく」
でもそれを知らなかったあの時の俺はただ、そんな仕草をする相沢がかわいいなとかそんなことしか考えられなくて、もしかしたら赤くなっているかもしれない顔を見られない為にそれだけ言ってすぐに花壇のほうを向き直すことしか出来なかった。