新堂さんと恋の糸
 個展の展示は、一階から始まって地下へと螺旋階段で下りていく。

 「新堂さん!あそこにあるのって賞を取った……?」
 「あぁ、美術館から借りられなかったからレプリカだけどな」

 私が初めて心を奪われた、スチール製のチェアだ。
 階段を下りる途中から見えたそれに思わず身を乗り出すと、危ないぞと窘められる。

 一階は有名ブランドとのコラボや商品化されたプロダクト、空間デザインなどのメジャー作品がメイン。一方で階段を下りた先の地下一階には、コレクションで発表した作品や学生時代の制作物、未発表作が並んでいる。

 商業作品から、デザイナーとしての原点へと移り変わっていく。
 新堂さんの思考の奥底に誘導されていくみたいな構成だ。

 地下から吹き抜けの天井を見上げると、まるで海の底に到達したみたいな錯覚に陥った。
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