新堂さんと恋の糸
 今までどこのメディアも特集記事を組めたところはない。

 まずアポイントを取ろうにも、多忙を理由に会ってさえもらえない。

 かくいう私も、編集部に配属されてから何度もアポイントをお願いしては断られ、今回ようやく『三十分だけなら』という条件付きで受けてもらえることになった。

 ただ、アポイントが取れただけで取材させてもらえると決まったわけではなく。
 ようやく会って話を聞いてもらえるというだけで、そこから企画をつっ返された数多くの編集者がいることは、業界ではよく知られている話だ。

 ――だから今日の打ち合わせは絶対に遅刻できないし、失敗できない。

 そのために時間もかなり余裕を持って到着するように出てきたし、資料とプレゼンの準備もやってきた。

 「まだ時間には早いけど、遅れるよりはいいよね」

 そうして私は指定されたビルに向かうべく、大通りへの道を歩く。

 月曜日の朝九時。ちょうど出勤時刻のピークで人通りが多い。
 周辺のオフィスビルを目指す人と、駅へ向かう人とで歩道はごった返していた。

 ―――そのとき。

 「あ……っ!?」

 どんっと、前から走ってきたビジネスマンに突き飛ばされた私は、その勢いで大きくバランスを崩してしまった。

 「ったく、ちゃんと前見て歩けよな!」

 (前を見ずに走って突っ込んできたのはそっちのほうじゃない!)

 去り際に捨て台詞を吐かれて腹が立ったものの、今の私は言い返すどころではなかった。飛ばされた勢いで、このままだと歩道の端に止まっている放置自転車の列に突っ込んでしまう。

 (そんなことになったら、間違いなく大惨事になる!)

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