新堂さんと恋の糸
 「新堂さんですか?すみません電話気づかなくて」
 「いや。園田って人からキャンセルの連絡があった。熱出したって?」
 「そうなんです、さっき病院にも行って……あ、有働くん、そこの十字路を右に曲がってもらえる?」
 「……誰か一緒にいんの?」
 「はい、会社の同期に家まで送ってもらってて」

 同期じゃないけど、と私にだけ聞こえる声で有働くんが呟く。厳密には違うけれど、編集部に配属になったタイミングが同じなこともあってつい同期と言ってしまうのが癖になっていた。

 「すみません、今度改めてスケジュール調整してもいいですか?」
 「あぁ、それはいいけど」
 「よろしくお願いします。あ、もう家に着くので電話切りますね」

 角を曲がって少し走るとマンションが見えてくる。有働くんはゆっくりスピードを緩め、ぴったりエントランス前で車を停めてくれた。

 「じゃあな、ちゃんと寝ろよ」
 「うん、本当にありがとう!帰り気をつけてね」

 私は走り去っていく車が見えなくなるまで見送ってから、マンションの中へと入った。

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