悪意を香る調香師は、氷の社長に溺愛される

最終章 永遠の香り

一年後。
「Anima」は国際的ブランドに成長した。パリ、ニューヨーク、ロンドンに店舗展開。
私は世界的な調香師として認められた。
ある朝、タワーマンションの寝室で目を覚ますと、蓮がまだ眠っていた。
私は彼の頭を優しく撫でる。
この人がいなければ、今の私はいなかった。
蓮が目を開ける。
「おはよう」
「おはよう、私の氷の皇帝陛下」
「まだそう呼ぶのか」
「だって本当に冷たかったですもん。最初は」
「今は?」
「今は……世界で一番温かい人」
その日、私は『Love』の最終調整をした。
この香水には蓮との全ての思い出が込められている。出会い、契約、恐怖、救済、愛の告白、全て。
トップはスズラン(出会いの清廉さ)。ミドルはダマスクローズ(情熱の愛)。ラストはバニラとムスク(永遠の安らぎ)。
「試してください」
蓮がムエットに鼻を近づける。深呼吸。
彼の目に涙。
「これはお前の愛の香りだ」
「私の全てがこの一瓶に」
蓮が私の前に膝をついた。
「え?」
「澪。俺たちの結婚は契約から始まった」
「でも今は違う。俺は心から君を愛している」
指輪の箱を開く。
「もう一度俺と結婚してくれ。今度は愛のために」
涙が溢れる。
「はい。何度でもあなたと結婚します」

数ヶ月後、親しい友人だけを招いた結婚式。
佐伯杏奈が涙ぐむ。「澪ちゃん、幸せそうで本当によかった」
橘秘書が笑う。「社長、本当に人間らしくなりましたね」
蓮が苦笑する。「全て彼女のおかげだ」
誓いの言葉。
「澪、君は俺の世界を静かにしてくれた。そして愛することを教えてくれた」
「蓮さん、あなたは私の居場所をくれました。そして自分を愛することを教えてくれました」
キス。拍手の中、私は思う。
ああ、私は本当に幸せになったんだ。

数年後。
「Anima」の旗艦店、銀座。店内に新しい香水が並ぶ。『Eternal』。
POPの説明:「永遠の愛を込めて。調香師・月島澪」
店の外、澪と蓮が手を繋いで歩いている。澪のお腹は少しふくらんでいる。
「大丈夫か? 疲れてないか?」
「大丈夫です。今日は良い悪意がたくさん嗅げましたから」
「良い悪意?」
「ええ。スタッフが私に嫉妬してくれるんです。『社長夫人で天才調香師で妊娠までして!』って」
クスクス笑う。
「その嫉妬、とっても甘い香りなんですよ」
「相変わらずだな」
「ええ。でももう怖くありません。だって……」
蓮を見上げる。
「あなたがいますから」
二人は夕暮れの銀座を歩いていく。
澪の周りにもう黒い霧はない。ただ透明で温かい光だけが二人を包んでいる。
――人の悪意は、愛によって、永遠の香りに変わる。
【完】

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