茜くん、ちょっと落ち着こう!?
「茜くんってモテるよね」
猫探しの最中、私はふと茜くんに聞いてみた。
「...モテないよ」
「え、いやいやいや!!」
「恵美、バレンタインの時に貰ったチョコの量を思い出せよ!」
「恵美がモテなかったら、世の中の何がモテなんだろう........」
迅くんと要くんは全力で首を振った。やっぱり相当モテるらしい。
「いや、モテないよ。........好きな子には」
最後の言葉が小さすぎて、私には聞こえなかった。
「椿芽は?椿芽はモテるのか?」
「え?」
(彼氏いない歴イコール年齢です........。ここでモテるって言ったらまた天候荒れそうだから、大人しく正直に言うしかないよね)
「彼氏いない歴イコール年齢....」
そう呟くと、茜くんはパァァァっと効果音が付きそうなくらい笑顔になった。ついでに空もめっちゃ晴れて心地良い風が吹いた。
(何で笑顔なんだろう........)
「じゃあ、俺が椿芽の初めて......」
(..........?)
よく分からないが、とてもご機嫌なようだ。
「なぁ椿芽」
「どうしたの?」
真剣な目で目を合わせてくる。
「子供は何人欲しい?」
「本当にどうしたの!?!?」
私が思わず後ずさると、迅くんと要くんが同時に反応した。
「何で子供の話になるんだよ!怖ぇよ!!」
迅くんが肩を掴んで揺さぶる。
「順序!順序ってものがあるだろ!」
要くんも横から参戦する。
「何言ってんだ、将来設計は大事だろ」
真顔でそう言い切る茜くんに、場の空気が一瞬フリーズした。
「いや、その前に家か。何処に建てようか。..........神隠もアリだな」
(何か今、とても物騒な言葉が聞こえたような........)
「駄目だこりゃ」
「茜くん、僕が言うのもあれだけど........手遅れだよ」
「独占欲が怖いよ........」
要くんが半歩引きつつ呟いた瞬間だった。
「にゃー」
間の抜けた声が、全員の足元から聞こえた。
「……あ」
「猫だ」
さっきまで必死に探していた猫が、全部聞いてましたと言わんばかりの顔で座っていた。
「よーしよしよし、家に帰ろうな〜」
常磐さんが猫を抱き上げ、撫でまくる。
それから依頼主の人に猫を帰し、無事に依頼は終了。

まだ時間はあったので、私達は近くの飲食店に入ることにした。
猫探しで歩き回ったせいで、全員いい感じに小腹が空いている。
「甘いもの食べたい」
「賛成」
「俺は肉」
まとまりのない意見のまま入店した、その瞬間。
「――あ?」
カウンターの向こうから、聞き覚えのありすぎる声がした。
「……椿芽?」
エプロン姿でトレーを持って立っていたのは―――バイト中のお兄だった。
「お兄!?」
「何でここに……いや、何やねんこのメンツ!」
「えーっと……」
私が言い訳を考える前に、茜くんが一歩前に出た。
「どうも」
ぺこり、とやけに礼儀正しい。
「椿芽とお付き合いさせてもらってる者です」
「は?」
空気が氷点下になった。
「椿芽ぇ、これは一体どういうことなんやぁ?」
怖い笑顔のまま私の方を向いてくるお兄。
(いや、付き合ってないから!!)
アワアワする私の次にお兄は茜くんを見て、営業スマイルが消える。
「……詳しく聞こか」
BGMのポップな音楽だけが、やけに場違いに響いている。
「いや、あの、それは……」
私が口を開くより早く、
「誤解です!!」
迅くんが即座に手を挙げた。
「今のは比喩っていうか、未来予想図っていうか!」
「未来予想図なぁ.......」
お兄の眉がぴくりと動く。
「ちょっと待ってください」
今度は要くんが割って入る。
「この人、思考が三段跳びどころかワープするタイプなんです」
「……否定せぇへんのかい」
お兄が低い声でツッコむ。
その横で、茜くんは相変わらず落ち着いていた。 むしろ、妙に真剣だ。
頼みの綱である常磐さんを振り返ったが、無関係を装うように口笛を吹いていた。
「……ちょっと、常磐さん」
私が助けを求めて小声で呼ぶと、 視線を逸らしたまま、口笛の音量が微妙に上がった。
(この人、完全に見捨てた……!)
「で?」
お兄が腕を組み、再び茜くんを見る。
「何歳や」
「椿芽と同い年です」
即答だった。
お兄は深いため息をつきながらも営業スマイルに戻り、トレーを構え直す。
「今はバイト中や。........注文どないする?」
席に案内してくれてメニュー表を渡してくれた。
私は無難にオムライスを頼む。
料理を待つ間、私の胃はオムライスより先に限界を迎えていた。
(絶対、後で詰められる……)
そんな私の不安をよそに、カウンターの向こうのお兄は―――仕事が異様に速い。
「……あの人、動きキレッキレじゃない?」
迅くんが小声で言う。
「怒りをエネルギー源にしてるタイプだね」
要くんが真顔で分析する。
しばらくして、料理が運ばれてきた。 お兄自ら、だ。
「お待たせしました〜」
声だけは完璧な営業スマイル。
―――ただし。
私の前にだけ、
オムライス、サラダ、スープ、なぜかデザートまでも置かれた。
「……え?」
「サービスや」
お兄はニコニコ笑顔で言う。
次に茜くん。 同じオムライス―――だが。
「ご注文のオムライスです」
それだけ。
デザートなし。 サラダなし。 スープもなし。
「椿芽は細いからな。よう食べや」
即答だった。
茜くんは一瞬だけオムライスを見つめ、 次に私を見る。
「椿芽」
「な、何?」
「俺の分、半分食べるか?」
その瞬間。
バンッ。
お兄の手にしていた伝票がテーブルに叩きつけられた。
私は耐えきれず、スプーンを持ったまま立ち上がる。
「普通にご飯食べたいだけだから!変な勘違いしないで!茜くんも、変なこと言わないで!」
お兄と茜くんに怒る私を見て、 お兄は一瞬だけ、素に戻った。
「……椿芽」
少しだけ、声が柔らぐ。
「嫌な思いさせたんやったら、すまん」
(あ、通じた……?)
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、お兄は再び茜くんを見る。
「やけどな、俺はまだ椿芽とお前が付き合うてんの認めてへんからな」
「はい」
茜くんは真っ直ぐ頷いた。
「お義兄さんに認めてもらえるように頑張ります」
「お義兄さん言うな。分かったか?」
「はい、お義兄さん」
「張っ倒すで」
こうして、 重度シスコン兄 vs 将来設計ガチ勢男子 という、誰も望んでいない構図が爆誕したのだった。
(……オムライス、味しないんだけど)
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