茜くん、ちょっと落ち着こう!?
「ナンパじゃないって!」
迅くんが大げさに両手を上げる。
「そうそう。別にナンパ目的でこの祭りに来た訳じゃねぇし」
要くんもにこにこしながら頷いた。
「......毎日十円あげるから彼女をくれー!!って命に頼み込んでたのは誰だよ」
茜くんは私をかばうように一歩前に出る。
「「......」」
二人は揃って目を泳がす。
「命......さん?」
「ああ、大黒命。福の神だよ」
「うわ、こいつクラスメイトの情報売ったぞ」
「エグい程心酔してるってのはよく分かったわ」
「え、えっと……?」
戸惑っていると、迅くんがぱっと表情を明るくした。
「安心して!今はもう諦めてるから!」
「そうそう。今は“面白そうなこと”を見に来ただけ」
「その言い方が一番信用ならねぇんだよ。茶化しに来ただけなら帰れ帰れ」
茜くんが即座にしっしっをする。
私は三人のやり取りを見ながら、頭の中で必死に整理していた。―――神様学校。―――風神と雷神。 ―――福の神のクラスメイト。
(情報量が多すぎる……)
頭が追いつかないまま立ち尽くしていると、要くんが私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫?今にもフリーズしそうだけど」
「い、いや……その……神様が多くて……」
「大丈夫。すぐに理解できる方がレアだから」
迅くんはけらけら笑い、要くんも「分かる分かる」と大きく頷く。
軽口を叩き合う二人に対して、茜くんは相変わらず不機嫌そうだった。
「で?“面白そうなこと”って何だよ」
「いやー、恵美が人間の子と一緒にいるって聞いたからさ」
「しかも祭りで射的屋。いかにも“イベント発生”って感じじゃん?」
迅くんの言葉に、茜くんの眉間のシワが深くなる。
「誰が言ったんだよそれ......ちょっと殺してくるわ」
「え、何?もしかしてもう“何か”あった?」 「……迅、もう黙って」
「えぇ〜」
要くんが素早く迅くんの口を塞ぎ、私の方を見る。
「ごめんねー。えーっと、椿芽チャン?」
「あ、綾辻椿芽です。じ、自己紹介が遅くなり、ごめんなさい」
思いつく限りの敬語で話す。か、神様だもんね!?タメ口じゃ無礼だよね......。
お辞儀をして顔をあげると、要くんが口元を隠しながらプルプルと震えていた。
「えっと......」
「敬語系女子、良い」
「「は?」」
茜くんと迅くんの声が重なる。
「控えめな子って良いね。いや、元気の女の子も良いけどさ、やっぱり控えめだよね......うん」
要くんが早口で何か言っている。
「ねぇ、椿芽チャン。おれの彼女になって―――ぐぇ」
ゴンッ!
茜くんがかけたプロレス技で、要くんの言葉が消えちゃった。
痛そう......。
要くんは地面に転がりながら、呻き声を上げた。
「いっ……急にプロレス技は反則……」
「悪い、要が不審者に見えたもんで」
茜くんは腕を組んだまま、ぴしゃりと言い切り、私の方を見る。
「椿芽。敬語じゃなくて良いから......俺は今まで通りタメ口の方が嬉しい」
そう言った彼の耳が赤くなっていた。
「うわー、恵美ちょろ」
「迅、あとで雷落とすから覚悟しとけ」
「ごめんってー」
迅くんが即座に土下座ポーズを取る。 その横で、ようやく起き上がった要くんが、ほこりを払いつつ私を見た。
「いやー、それにしてもさ」
「人間の女の子相手にここまで必死な恵美、初めて見たわ」
「必死じゃねぇ」
「抱きしめてたくせに?」
「……黙れ」
茜くんの声が低くなる。 私は思わず、自分が抱き寄せられていたことを思い出して、頬が熱くなった。
「……ね、ねぇ」
「ん?」
「神様学校って……どんなところなの?」
話題を逸らすように聞くと、要くんが待ってましたとばかりに前に出る。
「よくぞ聞いてくれました!神様学校とは、高天原にある神としてちゃんとできるように学習や実戦する学校兼・問題児隔離施設でーす!」
「問題児隔離施設......」
思わず声が漏れると、茜くんがすぐに私を見る。
「俺は問題児じゃないからな!?」
「何言ってんだお前。普通に神力制御できなくて暴走しかけたことあっただろ」
「う......」
「そう言う迅は校舎半壊させたよねー」
「オレの黒歴史......」
その時。 ぱぁん、と乾いた音が響く。
「あ、当たった!」
いつの間にか射的をしていた子供が、景品を掲げてはしゃいでいた。
「あ……仕事中だった」
私が慌てて言うと、茜くんはくすっと笑った。
「戻ろう」
「うん」
並んで射的屋に戻る。
背中越しに、迅くんの声が飛んできた。
「いやー、これは面白くなりそうだな」
「それな」
「……お前ら、本当に帰れ」
そう言いながらも、茜くんの声はどこか柔らかかった。
迅くんが大げさに両手を上げる。
「そうそう。別にナンパ目的でこの祭りに来た訳じゃねぇし」
要くんもにこにこしながら頷いた。
「......毎日十円あげるから彼女をくれー!!って命に頼み込んでたのは誰だよ」
茜くんは私をかばうように一歩前に出る。
「「......」」
二人は揃って目を泳がす。
「命......さん?」
「ああ、大黒命。福の神だよ」
「うわ、こいつクラスメイトの情報売ったぞ」
「エグい程心酔してるってのはよく分かったわ」
「え、えっと……?」
戸惑っていると、迅くんがぱっと表情を明るくした。
「安心して!今はもう諦めてるから!」
「そうそう。今は“面白そうなこと”を見に来ただけ」
「その言い方が一番信用ならねぇんだよ。茶化しに来ただけなら帰れ帰れ」
茜くんが即座にしっしっをする。
私は三人のやり取りを見ながら、頭の中で必死に整理していた。―――神様学校。―――風神と雷神。 ―――福の神のクラスメイト。
(情報量が多すぎる……)
頭が追いつかないまま立ち尽くしていると、要くんが私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫?今にもフリーズしそうだけど」
「い、いや……その……神様が多くて……」
「大丈夫。すぐに理解できる方がレアだから」
迅くんはけらけら笑い、要くんも「分かる分かる」と大きく頷く。
軽口を叩き合う二人に対して、茜くんは相変わらず不機嫌そうだった。
「で?“面白そうなこと”って何だよ」
「いやー、恵美が人間の子と一緒にいるって聞いたからさ」
「しかも祭りで射的屋。いかにも“イベント発生”って感じじゃん?」
迅くんの言葉に、茜くんの眉間のシワが深くなる。
「誰が言ったんだよそれ......ちょっと殺してくるわ」
「え、何?もしかしてもう“何か”あった?」 「……迅、もう黙って」
「えぇ〜」
要くんが素早く迅くんの口を塞ぎ、私の方を見る。
「ごめんねー。えーっと、椿芽チャン?」
「あ、綾辻椿芽です。じ、自己紹介が遅くなり、ごめんなさい」
思いつく限りの敬語で話す。か、神様だもんね!?タメ口じゃ無礼だよね......。
お辞儀をして顔をあげると、要くんが口元を隠しながらプルプルと震えていた。
「えっと......」
「敬語系女子、良い」
「「は?」」
茜くんと迅くんの声が重なる。
「控えめな子って良いね。いや、元気の女の子も良いけどさ、やっぱり控えめだよね......うん」
要くんが早口で何か言っている。
「ねぇ、椿芽チャン。おれの彼女になって―――ぐぇ」
ゴンッ!
茜くんがかけたプロレス技で、要くんの言葉が消えちゃった。
痛そう......。
要くんは地面に転がりながら、呻き声を上げた。
「いっ……急にプロレス技は反則……」
「悪い、要が不審者に見えたもんで」
茜くんは腕を組んだまま、ぴしゃりと言い切り、私の方を見る。
「椿芽。敬語じゃなくて良いから......俺は今まで通りタメ口の方が嬉しい」
そう言った彼の耳が赤くなっていた。
「うわー、恵美ちょろ」
「迅、あとで雷落とすから覚悟しとけ」
「ごめんってー」
迅くんが即座に土下座ポーズを取る。 その横で、ようやく起き上がった要くんが、ほこりを払いつつ私を見た。
「いやー、それにしてもさ」
「人間の女の子相手にここまで必死な恵美、初めて見たわ」
「必死じゃねぇ」
「抱きしめてたくせに?」
「……黙れ」
茜くんの声が低くなる。 私は思わず、自分が抱き寄せられていたことを思い出して、頬が熱くなった。
「……ね、ねぇ」
「ん?」
「神様学校って……どんなところなの?」
話題を逸らすように聞くと、要くんが待ってましたとばかりに前に出る。
「よくぞ聞いてくれました!神様学校とは、高天原にある神としてちゃんとできるように学習や実戦する学校兼・問題児隔離施設でーす!」
「問題児隔離施設......」
思わず声が漏れると、茜くんがすぐに私を見る。
「俺は問題児じゃないからな!?」
「何言ってんだお前。普通に神力制御できなくて暴走しかけたことあっただろ」
「う......」
「そう言う迅は校舎半壊させたよねー」
「オレの黒歴史......」
その時。 ぱぁん、と乾いた音が響く。
「あ、当たった!」
いつの間にか射的をしていた子供が、景品を掲げてはしゃいでいた。
「あ……仕事中だった」
私が慌てて言うと、茜くんはくすっと笑った。
「戻ろう」
「うん」
並んで射的屋に戻る。
背中越しに、迅くんの声が飛んできた。
「いやー、これは面白くなりそうだな」
「それな」
「……お前ら、本当に帰れ」
そう言いながらも、茜くんの声はどこか柔らかかった。


