ハニートラップ

――1年前。

真夏の明け方は、すでにジワジワと暑かった。

「人の女に手出しやがって!」

そう言って仲間を連れたクソ野郎に、その辺の公園まで引き摺られてから、ボコボコに殴られた。


手、出してきたのは女の方なのに。


グレて堕ちた場所にも居場所がない。
母親が再婚して新しくなった家族は、俺をその輪から外した。

切れた傷口に、温い風が染みる。
もうどこが痛いのかもわからない痛みで、朦朧とした。


その場所は抜け道になっているのか、通行人は幾らか通る。
けど、その誰もが俺を見なかったことにして、足速に過ぎ去っていく。

――全員クソ。

霞む目で空を仰ぐ。
ムカつくほど、青くて高い。

イライラもなんかどうでも良くなってきた。

(あ――――。
もう、いいか。ここで死んでも。)

どうせ誰も、気にしないし――


「ちょっとお兄さん!大丈夫ですか!?」

緊迫した声と一緒に、視界に地味な女が飛び込んできた。

「俊平!救急車!後、水買ってきて!」

2つ結びを揺らして、そいつが誰かにそう叫ぶ。

「ヤバイって!ほっとけよ、珠桜!」

少し離れたところで、頼りない男の声もした。


「何言ってんの!
そしたらこの人、死んじゃうでしょうが!」


瞼が腫れて狭かった視界が急にクリアになって、必死な横顔がよく見えた。

「頭のとこ、血出てます。
とりあえずこれで押さといてください……」

間近で見ると目が丸くて、幼顔。
心配そうな表情が、可愛いと思わなくもない。

その人は白いハンカチを取り出すと、躊躇いもなく血だらけの傷口を押さえる。

そうやって、救急車が来るまで俺の側にいてくれた。

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