こじらせCEOの壮大すぎる初恋計画 〜二代目女社長、冷徹なライバルに理不尽な政略結婚を迫られたはずが、すべては22年前からの策略でした!?〜
「……店の奥に行きましょう」
「迷惑かけてごめんなさいね」
 迷惑は二度目ねと遥が申し訳なさそうな顔をすると、店長はブンブンと勢いよく首を横に振った。

「荷物は私が持ちますので」
 店長に案内され、奥の部屋へ。
 その後すぐに男はいなくなったと店長は教えてくれた。

「記者でしょうか?」
「まさか。私の顔写真は会社のホームページにも出していないわ」
 住所は火事で燃えたビルのままだし、古民家オフィスにした実家も、社員を完全在宅勤務に切り替えてからは一度も立ち寄っていない。
 同級生だって成人式以来、ごく一部の友人以外とは疎遠だ。情報が漏れるはずがない。
 遥はそう自分に言い聞かせるように、軽く笑ってみせた。
 店長と相談し、ネイルを仕上げてもらった後、念のため1時間ほどここで待たせてもらって、裏口から帰ることになった。
 
「本当に大丈夫ですか? タクシーを呼んだ方が」
「大丈夫よ。ありがとう。帽子に眼鏡を見たら逃げるわ」
 今日は走れる靴だからと遥は笑う。

「今は……いないです」
「ね、大丈夫でしょう」
 心配してくれる店長に手を振り、遥は店の裏口から静かに出た。
 
 たまたま店の前に変な男性がいただけだ。
 自分とは関係ない。
 大通りに出て、駅の方に歩いていた遙は、不自然な近さで横に並んだ男に目を見開く。
 向けられたスマートフォンの画面には、録音中のインジケーターが非情に揺れていた。

「九十九社長。 火事の件、本当は彼の同情を買うための自作自演じゃないんですか?」
 え? ツクモって言った?
 遥は男を無視し、早歩きで駅に向かう。

「火事を理由に結婚を迫ったって事実ですか? 彼には将来を誓った相手がいるのに略奪ですか?」
 ……略奪?
 一応、私と婚約中だから略奪ではないはず?
 何の話?

「答えないってことは事実なんですね?」
 どうしてそうなるのよ。
 このまま隼人のマンションに向かったら迷惑がかかる。
 実家に行くべき?
 でも実家も知られたくない。
 タクシー、やっぱり呼んでもらえばよかった。

「遥!」
 聞き慣れた声に反射的に顔を上げた瞬間、視界が黒い生地で覆われ強い力で抱き寄せられた。
 隼人の体温と、微かに香るシトラスの香りに包まれる。
 
「俺の婚約者に何の用だ?」
 隼人は片腕で遥をしっかりと抱え込み、もう片方の手で記者の持つスマートフォンを叩き落とさんばかりの勢いで掴み取った。
< 77 / 85 >

この作品をシェア

pagetop