幼馴染のち恋模様
しばらくして、梗介たちが部屋から出てきたので社長を呼び戻しミーティングルームに戻った。
さっきとは打って変わって、憑き物が取れたように前を見据える瑠奈。
「柚月さん」
葵の肩がビクッと反応する。
瑠奈に名前を呼ばれ、何を言われるのかと身構えてしまう。
でも・・・この部屋に入る前梗介は、葵を安心させるように微笑んだ。だから、大丈夫。
「梗・・・東雲さんと話をする時間をくれてありがとう」
梗介と言いかけて言い直す瑠奈に梗介以外の全員が驚く。
「冷静に話すことが出来て、やっと自分がしたことの愚かさに気づいたわ・・・あなたを貶めて、嘘をついて、暴言を吐いて・・・何をしたわけでもないあなたを傷つけたこと、本当に申し訳ありませんでした」
瑠奈は立ち上がって綺麗に腰を折ると深く頭を下げた。隣に座っていた社長も立ち上がり一緒に頭を下げる。
葵は黙って瑠奈を見つめる。瑠奈は椅子に座り直し、徐に話し出した。
「あなたが羨ましかった・・・自分を見失うほど嫉妬して、やってはならない事に手を染めて・・・。柚月さんだけじゃない、私のくだらないプライドにたくさんの人を巻き込んでしまった・・・いつの間にか、社長の娘っていう立場を利用する・・・一番なりたくないと思っていた人間になっていたわ」
瑠奈は自分がしてきた行いを思い出し自嘲する。
瑠奈の話に黙って耳を傾ける社長の表情は、どこからどう見ても愛する我が子を心配する父親の顔だった。
葵は瑠奈の言葉と父である社長の表情を見て、瑠奈はもう大丈夫だと心から安心することができた。
「これからは自分のしてきた事を忘れず生きていくわ。柚月さん、謝るだけじゃ気が済まないと思うから、殴るなり指つめるなり言って。何でもするわ」
「いえっ!・・・殴りませんし、指も大切にしてください・・・」
瑠奈の潔い口ぶりに葵が慌てふためく。
「なら、奴隷にでもなるわ」
「!?何言ってるんですか!?」
瑠奈さんの償い方独特すぎません!?
どうしたら止まってくれるのか分からず視線だけ梗介に助けを求める。
「葵を困らせるな」
梗介は苦笑いしながら間に入ってくれた。
「葵。本当に謝罪だけでいいのか?」
葵の思いを汲み取ろうと梗介が真っ直ぐ葵を見つめる。
この瞳に、この真っ直ぐな想いにたくさん救われてきた。
心配そうに見つめる梗介を安心させるように微笑むと、瑠奈に視線を移す。
「瑠奈さん、話してくれてありがとうございます」
一礼してもう一度瑠奈と目を合わせる。
「瑠奈さんにされたことは・・・とても傷ついたし、忘れることは出来ないと思います」
ゆっくりと言葉を並べ届ける。
「だけど、瑠奈さんの心の奥底に沈めていた想いを聞いて、瑠奈さんも苦しんでいたことを知ることができた。したことは消えないし、傷つけた事実も無くなりません。だから・・・今度は間違えないでください。瑠奈さんの言動は瑠奈さんに返ってきます。瑠奈さんが苦しめば、瑠奈さんを大切に思うお父様も苦しんでしまいますよ?傍にいる大切な人を見失わないでください」
瑠奈は目に涙をいっぱい溜めて父親にそっと目を向ける。
一も瑠奈を微笑んで見返し頷く。
瑠奈の瞳から堪えきれなくなった涙がこぼれ落ちた。
「瑠奈さんが言う巻き込んでしまったたくさんの人、はどうか分かりませんが、私は瑠奈さんの謝罪を受け入れます」
言いたいことを言い終わりフッと息を吐く。
隣にいる梗介が葵の手を優しく包み込んだ。
「寛大な言葉を本当にありがとう。娘と一緒に、向き合って償っていこうと思う。何か困ったことがあれば言ってくれ、何でも力になろう」
一は切実な言葉で梗介と葵を驚かせた。
強力な後ろ盾を手に入れてしまった、と梗介と笑い合った。