幼馴染のち恋模様

「落ち着いたか?」
「うん・・・」

梗介の胸を借りて思う存分泣いたおかげかすごくスッキリした気持ちでいる。のと同時に急に冷静になり恥ずかしさが込み上げ顔が挙げられない。

「「・・・・・・・。」」

お互い切り出し方に迷って静かな沈黙が流れた。

「葵って小さいな・・・」
「え、悪口?」
「違う違う」

梗介が笑って否定する。

「なんか、抱きしめてると潰しちゃいそうで怖い」
「流石にそんなやわじゃないよ」

葵も笑って返す。

「梗介は・・・あったかいね」
「俺、体温高いからな」
「ふふっ・・・知ってる」

小さい頃、冬でも薄着で外に出る梗介に寒くないのか聞くといつも「俺、体温高いから!」と得意気に笑っていた。その後風邪を引くまでがセットだ。
梗介に再会してから、たくさん思い出が蘇ってくる。あの頃は梗介のことを一番知っているのは私だったはずなのに・・・。

「知らないこと、増えちゃったな・・・」
「何?」

そっと体を離す。梗介と葵の間に隙間ができ、お互いの体温を風が攫っていく。
言わないと・・・私の気持ち。

「あのね・・・梗介が30歳になってお互いに相手がいなかったら・・・って話した時、絶望したの。遠い未来の話をされたってことは私への気遣いが含まれた牽制だって・・・。だから忘れようとした。梗介が海外に行くのはちょうどいい機会なのかもしれないって、スマホの番号が変わったのもそういう事なのかなって・・・」

梗介は黙って葵の話に耳を傾けていた。瞳は真っ直ぐ葵の目に向けられている。

「彼氏もね、いた時もあるの・・・」

梗介の肩がピクッと反応する。俯いて話す葵は気が付かないまま話し続ける。

「だけど、梗介といった場所とか梗介の好きなもの、嫌いなものを見つける度に、思い出しちゃって・・・」

この街には梗介との思い出が溢れている。この街以外でも梗介とともに過ごした日々が、記憶が、忘れさせてはくれなかった。

「梗介は私のことなんか忘れて幸せに過ごしてるはずだって、諦めなきゃって、思えば思うほど苦しくて・・・」

また涙で視界が滲む。だけど、最後まで伝えたい。

「そんな気持ちに気づかないフリをして過ごしてたのに・・・梗介が目の前にいる。好きだって、言ってくれた・・・」

ゆっくりと顔を上げ、梗介と目を合わせる。

「私も・・・梗介のことがずっと好きです。私と・・・えっ?」

言い終わる前に腕を引かれ梗介の腕の中へ舞い戻る。

「それは、俺に言わせて」

ギュッと力を込めて抱きしめるとそっと離して葵の頬を両手で包み込む。

「柚月葵さん。俺と付き合ってください」

甘い微笑みとともに待ち焦がれた言葉が降り注ぐ。

「よろしくお願いします」

梗介は喜びに破顔すると、葵の頬を撫でる。幸せそうに瞳を揺らす葵を愛おしそうに見つめる梗介の顔が近づく。
街灯に照らされた二人の影がそっと重なった。

春の足音とともに、二人の関係は大きく変わっていった・・・。


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