幼馴染のち恋模様
「やっと呼んでもらえた・・・葵に苗字で呼ばれるたびに違和感すごかったから」
「それはお互い様だよ」
梗介に柚月さんと呼ばれるたび心の距離を取られているようで苦しかった。
「じゃあ次」
「まだあるの?」
「これが最後」
何を言われるのだろうとなんだか少し緊張する。心なしか梗介の顔も強張っていてより一層緊張が走る。
少し俯いていた梗介の不安げに揺れる瞳が葵の目に映る。
「葵・・・俺を彼氏にして」
「・・・・・・・・。」
えっ・・・なんて、言ったの?
彼氏・・・?誰が・・・誰の・・・?え?これは、夢・・・?
パニックに陥り、目を瞬く。
「ずっと・・・ずっと好きだったんだ。俺のこと好きじゃなくてもいい・・・それでも、チャンスが欲しい」
ずっと・・・?
梗介の変わらない真っ直ぐな眼差しに現実なのだと感情が込み上げる。
「30歳に、なってないよ・・・?」
震える声で呟く葵の言葉に梗介は目を見開く。
「覚えてたのか?」
「当たり前じゃない!その言葉が私にトドメを刺したのに!」
その時の感情が思い出されつい言葉が荒々しくなる。
「トドメって、なんだ?」
「30歳になったらなんて未来の話をするから、お前のことはなんとも思ってないって牽制されたのかと思ったの」
「違う!あれは・・・俺が情けなさすぎて・・・バカなこと言ったって後悔した。あの時想いを告げてたらって何回も何回も・・・でも、戻れないから。だからもう俺は誤魔化さない。30歳なんて待ってられない」
梗介の熱を帯びた瞳が真っ直ぐ葵を射抜く。
「葵が好きだ」
待ち望んだ言葉が葵の心をじんわり温める。こんなにも気持ちを向けられたことはあっただろうか・・・。とめどない私への想いが切に詰まった言葉たちに涙が溢れ出す。
私も言いたいのに・・・涙が次から次に溢れて言葉にならない。
「葵、触れてもいい?」
梗介が遠慮がちに葵に手を伸ばす。さっき振り払ったことを気にしてくれているようだ。
言葉の代わりに何度も頷いた。目元を覆っていた葵の手を梗介の手が包み込む。目元から外させると梗介の指が涙を掬い取っていった。
「嫌だった?」
「やじゃない!グスッ・・・違うの・・・うっ、グスッ・・・きょ、すけ・・・行かないで」
「ん?どこにも行かないよ」
そっと抱き寄せられる。
梗介の温もりにさらに涙が溢れて止まらない。
「ここにいるから大丈夫だ」
この人の腕の中はこんなにも温かくて安心できる場所なんだと、出会ってから20年以上経って初めて知った。