幼馴染のち恋模様【完】
あれから1週間経った週末、仕事を終え霜月駅に降りると満月が葵を見下ろしていた。
「わぁ〜綺麗・・・今日満月だったんだ」
梗介に送ろうと写真を撮る。
ふと工事中のテナントへ目を向けると、ヘルメットを被って工事関係者と話す梗介を見つけた。会えたことが嬉しくて駆け寄ろうと足を踏み出して止まる。
隣には葵よりも背が高いモデルのような美しい体型の女性。梗介と顔を寄せ合って図面か何かを見ている。時々笑い合う姿が、まるで恋人のようにお似合いで葵の心臓が嫌な音を立てる。
誰・・・?
遠慮しようかと思ったが、この時間に梗介もいるとなると何かあったのではないかと仕事脳が働き、梗介達へ向かって足を進めた。
「こんばんは。お疲れ様です」
話していた3人が一斉に振り返る。
「葵!お疲れ。帰りか?」
「うん。あの・・・何かあったんですか?」
3人の表情が少し強張る。
「ちょっと気になる部分が見つかって工事を止めるかもって相談をしてたんだ」
「え・・・?」
「梗介、誰?」
スッと話に入ってきたのは梗介の隣にいた綺麗な女性。長くしなやかに伸びる黒髪がよく似合っている。
「あぁ。こちら、霜月のタウン誌を手掛けてる柚月葵さん。今回のプロジェクトを取材して記事にしてくれている」
「初めまして。柚月葵と申します」
ぺこっと頭を下げる。
「んで、こちらはロンドンで働いてた時の同僚、藤堂瑠奈さん。日本に遊びに来てたらしいから、建物の改装のことで意見もらおうと思って呼んだんだ」
「初めまして、藤堂瑠奈です。梗介ってばプライベートで来てるのに仕事の話ばっかり!夕食くらい奢りなさいよね」
気心が知れたように肩を組む瑠奈。
瑠奈は名前の通り月のような艶やかな雰囲気を纏っている。
「それから!」
梗介が瑠奈を引き剥がしながら続ける。
「葵は俺の彼女だから」
今度は梗介が葵の腰を引き寄せた。恥ずかしさに一気に顔が赤くなる。
「ふ〜ん。指輪を外してる理由はこの人なのね」
綺麗な唇が弧を描く。
指輪をはめていた理由を知っていたの?そのくらい仲が良かったってことなのかな・・・。も、元カノ・・・?
「紹介はこのくらいにして。肝心の気になる部分なんだけど・・・」
現場監督のおじさんが気まずそうに気配を消していたことに気が付く。申し訳ない・・・。
葵もヘルメットを借りて中へ入る。
「ここの梁の結合部。高架の振動が想定より強い。これだと10年後に歪みが出る可能性がある」
駅直結という条件のおかげで人の流れは想定以上に集中する。特に雨の日なんかは。その負荷計算に僅かなズレが生じたようだ。
スケジュールを考えると、ここでの修正はだいぶ痛手だ。
葵が梁の部分を眺めている横で、梗介と瑠奈が専門的な会話を繰り広げていた。心なしか梗介の表情も生き生きしている気がして胸がざわつく。
向こうではもっとたくさん一緒に過ごしていたんだよね・・・。
私の知らない梗介を突きつけられた気がして心に黒いモヤが広がっていく。
「葵。記事には書かなくていいから」
梗介の言葉に顔をあげる。
「記事にもしづらいだろ」
いけない。今は編集者としてここにいるんだから。
「・・・でも、大事な判断だと思う」
葵は言葉を選びながら続けた。
「予定通りじゃないことは一見ネガティブに映るかも知れないけど・・・ちゃんと止まれるって、信頼できる気がする」
梗介はふっと息を吐いた。
肩に入っていた力がストンっと抜けるように、いつもの余裕綽々とした顔で言い切った。
「安全基準を一段階上げます」
「工期は?」
「延びる。でも信頼を得るためです」
現場監督が渋い顔で頷いた。
「・・・分かりました」
一旦今日は解散となり、梗介の車で送ってもらうことになった。