幼馴染のち恋模様
「葵!」
必死に葵に向かって走ってくる梗介。
葵はなぜか、梗介とは反対方向に走り出していた。
「えっ葵!?」
浩樹の驚いた声を背に無我夢中で走る。
今、会ってしまえば何を言い出すか分からない。これ以上、困らせたくない。傷つきたく・・・ないよ。
そこまで足が速いわけでも、体力があるわけでもない葵はすぐに捕まった。
梗介に手首を掴まれ、立ち止まる。
「離して!」
自分でも驚くほど大きな声が出て、梗介も一瞬怯むが離してはくれない。
「葵!頼むから聞いてくれ!」
「聞きたくない!いやっ、離して!」
暴れる葵を梗介は落ち着いた声で諭す。
「俺が葵を傷つけたことは事実だ・・・だけど、俺は嘘はついてない。葵に言った言葉はどれも、本心で、心からの言葉だった。それだけは信じて・・・」
梗介の低い声が、真っ直ぐな言葉が、冷静さを引き戻す。
呼吸を整え、梗介に向き直る。
「逃げて、ごめんなさい・・・」
「いいんだ。葵は何も謝らなくていいんだよ」
梗介の冷たい手が葵の手首を掴んだまま、離さない。
「もう逃げないから・・・手、離して」
「・・・話、聞いてくれるか?」
苦しそうな、泣きそうな顔をしながら、葵を見つめる。
「うん。ちゃんと聞くから・・・」
惜しむようにゆっくり手が離される。
「寒いから車で話そう」
梗介が歩き出すので後を追う。
来た道を戻り、宿の前まで来ると浩樹を見つける。私が戻ってくるのを待っていてくれたようだ。
梗介も浩樹を見つめている。
「心配かけたみたいだから、大丈夫だって伝えてくるね」
「・・・分かった」
浩樹には知り合いだということと、危ないことはないということだけ伝え帰ってもらった。
最後まで心配そうに梗介をチラチラ見ながら私の話を聞いていたが、明日また連絡するよう言い含められ帰っていった。
梗介の車は宿の駐車場に停めてあった。
梗介はなぜか後部座席のドアを開け、葵を促す。
もう、助手席には乗せてくれないのかと、落ち込みそうになったところで梗介が言い訳のように呟いた。
「前だと葵が遠いだろ・・・葵がいいって言うまで絶対触れないから・・・ダメ、か?」
捨てられた子犬のように見つめられ、内心ずるい!と文句を言いながら了承して後部座席に乗り込む。
自分の意思の弱さが憎い。
梗介も隣に乗り込み、葵と拳一つ分の距離を空けて座っている。思ったよりも近い距離。だけど、心の距離は拳何個分空いてしまったのだろうか・・・。
「「・・・・・・・」」
車内に沈黙が流れ、気まずい空気が流れる。
梗介は自分の手元を見つめながら、意を決したようにグッと拳を握り静かに話し始めた。