幼馴染のち恋模様
社長はソファーに深く腰掛け、手のひらで目を覆っている。
梗介は静かに話を切り出した。
「・・・私には、数ヶ月前から付き合っている女性がいます。子供の頃からの幼馴染で、ずっと想ってきた相手です。・・・瑠奈さんと付き合っていた時も、彼女への想いが胸の奥にずっとあり続けました。瑠奈さんに対して誠実ではなかったこと、心からお詫び申し上げます」
立ち上がって深く頭を下げる。
もう一度座り直し、続けた。
「しかし、今回のことはあまりに倫理観に欠ける行いだと憤っております。瑠奈さんは私だけでなく、私の恋人にも名誉毀損に当たる行いをしました」
「何だって・・・?」
葵の会社での出来事に加え、葵を脅したことも全て伝える。
「!?」
「彼女は・・・葵は、深く傷ついています」
社長は、娘の行き過ぎた行いに言葉を失った。
「葵さんは訴えることはしませんでしたが、上司の方から名誉毀損で訴えられていますので、そちらは後ほどお話しさせていただきます」
蓮からも現状を伝えられ、社長は今にも倒れそうだった。
「私は育て方を間違えたらしい。今まで私は、娘の何を見てきていたのだろうな・・・どうして気が付かなかったのか・・・」
「・・・それに関しては、奥様が一枚噛んでらっしゃるかと」
「そう考えるのが妥当だろうな」
社長の目は虚空を見つめる。
小さかった頃の娘を思い出しているのかもしれない。
「社長。婚約の件は無かったことにしてよろしいですよね?」
「当たり前だ。君と君の大切な人を巻き込んでしまったこと、心から謝罪する。申し訳ない」
社長は深く頭を下げる。
やっと肩の力が抜け、重く息を吐き出した。
「その言葉が聞けて安心しました。が、今回のことは、到底、許すことはできません。今のところ訴えることはしないつもりですが、瑠奈さんには公の場で婚約の件への訂正をしていただきます。それから、私の恋人への心からの謝罪を要求します」
「あぁ・・・私も親としての責任を果たそう」
「ありがとうございます。今日はこれで失礼します」
瑠奈の実家を出てようやく肩の力が抜ける。
「蓮、本当に助かった。ありがとな」
「素直な梗介気持ち悪い。お礼はしっかりしてもらうから忘れるなよ?今は彼女の元へ急いだら?」
「そうさせてもらう」
瑠奈の実家を後にして、葵の元へ急ぐ。蓮には葵がいる場所も調べてもらっていたため、あとは向かうだけだ。
やっと会える・・・!
しかし、葵は許してくれるだろうか。葵が一番苦しんでいた時にそばに居なかった俺のことを・・・。
落ち込むのはあとだ、と気合を入れて車を走らせた。