幼馴染のち恋模様

車を停めている近くの駐車場に向かう道中、思い出したように梗介が話し始めた。

「そういえば、親にはいつ報告する?うちはもうバレてるとは思うけど・・・」

梗介に言われ眉間に皺がよる。両親がどんちゃん騒ぎを始めるであろう姿が想像できてげっそりする。

「報告か・・・早めに済ませちゃいたいね」
「今日行っちゃうか?」
「電話して聞いてみる」

お互い母に電話をかけるとどちらも夜ならOKだそうだ。久しぶりにみんなで集まって食事をするので、それはそれでとても楽しみだ。

「一応手土産買ってくか」
「そうだね」
「ついでに婚姻届の承認欄も書いてもらおう」

婚姻届・・・!その響きに一気に緊張感が高まる。

「なんか緊張してきた・・・」
「あの親たちなら反対はしないと思うけど」

それはそう。反対されても、昔からくっつけようとしてたじゃない!って言い返せる。

「じゃなくて、婚姻届の方・・・」
「そっちか」
「あんまり実感湧いてなかったんだけど、婚姻届ってリアルだよね」
「リアルじゃなきゃ困る。・・・・なんか迷ってんのか?」

不安そうに尋ねる梗介に慌てて否定する。

「ちがっ、違うよ!迷ってるとかは全然ないの。どちらかと言うと、ポジティブな意味で緊張するというか・・・梗介と家族になれるんだなぁって、奥さんとしてちゃんとやっていけるかなぁって・・・」

葵は梗介に胸の内を打ち明ける。
不安がないわけじゃないが、梗介との人生を前向きに考えてのことだった。
するりと両手が包み込まれ、ギュッと握られる。

「葵がやらなきゃいけないことは幸せになることだけだよ。ちゃんとなんてしなくていい。出来ないことは出来ないって言っていいし、やりたくないことはやりたくないって言っていいんだ」

梗介はいつもの真っ直ぐな眼差しで葵を見つめ、告げる。

「俺は葵に無理してほしくて結婚するんじゃない。葵が好きで、葵のそばで葵の笑顔を守りたいから結婚するんだ。言っただろ・・・葵には心から幸せだって思って生きてほしいって、そうさせるのは俺がいいって」

梗介が旅行先に会いに来てくれた時だ・・・。
いつだって梗介の言葉は柔らかく心に馴染む。不安が溶けて消えていく。この人と一緒なら何も怖くない。そう思わせてくれる大きくて、温かい人。

「もう充分幸せだよ」
「まだまだ序の口だよ。泣き虫な奥さん」

葵の涙を指で掬い、抱きしめる。

私の人生で一番の幸運は、この人と出会えたことなんだと思う。

「梗介、出会ってくれてありがとう。私を好きになってくれて、大切にしてくれて、ありがとう」
「こちらこそ。出会ってくれて、俺を選んでくれて、ありがとう。これからも一緒に幸せになろうな」

駐車場の車の陰。おでこをくっつけて幸せそうに笑い合う二人を、燦々と輝く太陽が見下ろしていた。

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