メシ友婚のはずなのに、溺愛されてるのですが!?

 そして、着席したところでコース料理が運ばれてきた。けれど……デジャヴった。今日の、メインディッシュは……仔牛フィレ肉だった。一応牛ではあるけれど……大人ではなく子供だった。黒毛和牛だったけれど、惜しい。非常に惜しい。

 隣の和真さんは……超絶不機嫌、だ。一応牛肉ではあるけれど、もう頭の中はA5ランクの黒毛和牛だった。はぁ……これは後が怖いぞ。


「あら? 瑠香さんってテーブルマナーは苦手なの?」

「っ……」


 いきなり、泉谷さんがそう言ってきた。た、確かに何度か和真さんに教えてもらったけれど……覚えたてではある。こういうのをよく食べているお金持ちの方達は、テーブルマナーは完璧だろうけれど、私は違う。


「人間誰しも得意不得意はあるさ。僕だってある」


 それを言ってくれたのは、和真さんのお兄さん。

 やっぱり優しい人だ、この人は。あの時、ハンカチを拾ってくれた時と全く変わらない。


「今日は僕達4人しかいない。だから気にせず楽しく食事をしよう」

「……えぇ、そうね。ごめんなさいね、瑠香さん」

「あ、いえ……」


 けれど、気が付いた。その時、和真さんが一度手を止めた事を。

 彼らの事は、私は全く知らない。だから、どんな関係なのかも、分からない。

 和真さんの妻であるなら、それをよく知ったほうがいいのかもしれない。けれど、期限が1年なのだから余計な事は知らないほうがいい。

 彼らと私は、全く生まれが違うのだから。

 そして、ようやくこの食事が終わりを告げた。


「じゃあな」

「うん、またね」


 和真さんは、食事が終わると早々に私の手を取りその場を後にした。あのテーブルの支払いはこれで、とスタッフにカードを渡していたから、支払いは和真さんが全て支払った事になる。


「あの……」

「……ったく、黒毛和牛食いそびれたな」

「あ、はは……」


 一応牛ではあったけれども。でもやっぱり、黒毛和牛が食べたかったのね。

 うん、いつもの和真さんだ。けれど……ついさっきまで、なんだか違和感のある様子だった。

 でも、私はそこに触れてはいけない気がする。


「夕飯だな」

「そうですね」


 彼の兄と婚約者の前で私がちゃんと出来なかった事には本当に申し訳なさがある。けれど、それを謝るのは……今はやめた方がいい気がした。

 それは何故だか分からないけれど……彼らの話は、やめた方がいいと思った。それだけ、彼に違和感があったから。
< 51 / 69 >

この作品をシェア

pagetop