さよならの代わりに授かった宝物
第七章:冷徹な警視、パパになる
DNA鑑定の結果を待つまでもなく、
勇気の中に芽生えた「確信」は、これまでの執着をまったく別の形へと変えていた。
あの日以来、勇気は仕事の合間を縫って、驚くほど頻繁に帰宅するようになった。
それは、萌香を監視するためではない。
明らかに――蓮の顔を見るためだった。
「……勇気さん、それは?」
リビングに入った萌香は、思わず足を止めた。
ソファの上には、最新式の超精密ドローンや、山のような知育玩具。
それを広げているのは、紛れもなくエリート警視・高畑勇気だった。
「蓮が、飛ぶものに興味を示していた」
淡々とした口調だが、どこか得意げだ。
「公安の機材よりは性能が落ちるが……子どもの遊び相手には十分だろう」
「性能の問題じゃないわ……それに、これ対象年齢が……」
「細かいことは気にするな」
勇気はそう言って、当然のように蓮を自分の膝の上に乗せた。
かつて“付録”だと突き放していたとは思えないほど自然な動作だった。
「いいか、蓮。このレバーをゆっくり――そうだ」
低い声が、どこか優しい。
「……筋がいいな」
ぽつりと、誇らしげに付け加える。
「俺の息子なら、当然だが」
「わあ! すごい! おじちゃん、じょうず!」
「……“おじちゃん”じゃない」
勇気は少しだけ眉をひそめる。
「パパ、だ」
「……ぱぱ?」
「そうだ」
照れを隠すように短く答える勇気に、萌香の胸がきゅっと締めつけられた。
夕食後、さらに萌香を驚かせる出来事が起こる。
風呂上がりの蓮をバスタオルで包み、
勇気が慣れない手つきでその小さな体を抱き上げたのだ。
「俺が寝かしつける」
「え……? でも、勇気さんにそんなこと……」
「……父親の役目を、奪うな」
少し拗ねたような言い方。
萌香は何も言えず、ただ頷いた。
寝室のドア越しにそっと覗くと、
勇気が蓮に絵本を読み聞かせている。
普段は六法全書を読み上げるような厳格な声が、
いつの間にか、穏やかで柔らかな調べに変わっていた。
蓮が勇気の大きな手を握りしめ、
安心しきった寝息を立て始める。
勇気はその小さな額に、そっと唇を落とした。
(……あんな顔、私にも見せなかったのに)
胸に、ちくりとした痛みが走る。
憎いはずの男。
嘘のプロポーズで自分を裏切ったはずの男。
それでも――
子どもを慈しむその背中を見ていると、
凍りついていた心が、少しずつ溶かされていく。
寝室を出た勇気と、廊下で鉢合わせる。
彼は萌香に気づくと、ふっと表情を和らげ、
乱暴ではない力で、彼女を壁際へと導いた。
包み込むような距離。
逃げ場を塞ぐのではなく、守るための距離。
「……蓮は、俺にそっくりだ」
低く、どこか嬉しそうに言う。
「驚くほどにな」
「……ええ」
「こんな宝物を隠して逃げた罪は、確かに重い」
そう前置きしてから、声を落とす。
「だが……あの子を一人で、ここまで真っ直ぐに育ててくれたことには、感謝している」
勇気の大きな手が、萌香の頬を優しくなぞった。
「萌香。もう一度言う」
視線を逸らさず、はっきりと。
「便宜上の妻じゃない。
俺の――本物の妻になれ」
額を寄せ、低く囁く。
「今度は、俺のすべてを賭けて誓う。
お前と、蓮を守ると」
二年前よりも、ずっと重く、ずっと甘い言葉。
信じてはいけないと分かっているのに。
勇気の瞳に宿る真摯な光に、
萌香の決意は、音もなく揺らぎ始めていた。
勇気の中に芽生えた「確信」は、これまでの執着をまったく別の形へと変えていた。
あの日以来、勇気は仕事の合間を縫って、驚くほど頻繁に帰宅するようになった。
それは、萌香を監視するためではない。
明らかに――蓮の顔を見るためだった。
「……勇気さん、それは?」
リビングに入った萌香は、思わず足を止めた。
ソファの上には、最新式の超精密ドローンや、山のような知育玩具。
それを広げているのは、紛れもなくエリート警視・高畑勇気だった。
「蓮が、飛ぶものに興味を示していた」
淡々とした口調だが、どこか得意げだ。
「公安の機材よりは性能が落ちるが……子どもの遊び相手には十分だろう」
「性能の問題じゃないわ……それに、これ対象年齢が……」
「細かいことは気にするな」
勇気はそう言って、当然のように蓮を自分の膝の上に乗せた。
かつて“付録”だと突き放していたとは思えないほど自然な動作だった。
「いいか、蓮。このレバーをゆっくり――そうだ」
低い声が、どこか優しい。
「……筋がいいな」
ぽつりと、誇らしげに付け加える。
「俺の息子なら、当然だが」
「わあ! すごい! おじちゃん、じょうず!」
「……“おじちゃん”じゃない」
勇気は少しだけ眉をひそめる。
「パパ、だ」
「……ぱぱ?」
「そうだ」
照れを隠すように短く答える勇気に、萌香の胸がきゅっと締めつけられた。
夕食後、さらに萌香を驚かせる出来事が起こる。
風呂上がりの蓮をバスタオルで包み、
勇気が慣れない手つきでその小さな体を抱き上げたのだ。
「俺が寝かしつける」
「え……? でも、勇気さんにそんなこと……」
「……父親の役目を、奪うな」
少し拗ねたような言い方。
萌香は何も言えず、ただ頷いた。
寝室のドア越しにそっと覗くと、
勇気が蓮に絵本を読み聞かせている。
普段は六法全書を読み上げるような厳格な声が、
いつの間にか、穏やかで柔らかな調べに変わっていた。
蓮が勇気の大きな手を握りしめ、
安心しきった寝息を立て始める。
勇気はその小さな額に、そっと唇を落とした。
(……あんな顔、私にも見せなかったのに)
胸に、ちくりとした痛みが走る。
憎いはずの男。
嘘のプロポーズで自分を裏切ったはずの男。
それでも――
子どもを慈しむその背中を見ていると、
凍りついていた心が、少しずつ溶かされていく。
寝室を出た勇気と、廊下で鉢合わせる。
彼は萌香に気づくと、ふっと表情を和らげ、
乱暴ではない力で、彼女を壁際へと導いた。
包み込むような距離。
逃げ場を塞ぐのではなく、守るための距離。
「……蓮は、俺にそっくりだ」
低く、どこか嬉しそうに言う。
「驚くほどにな」
「……ええ」
「こんな宝物を隠して逃げた罪は、確かに重い」
そう前置きしてから、声を落とす。
「だが……あの子を一人で、ここまで真っ直ぐに育ててくれたことには、感謝している」
勇気の大きな手が、萌香の頬を優しくなぞった。
「萌香。もう一度言う」
視線を逸らさず、はっきりと。
「便宜上の妻じゃない。
俺の――本物の妻になれ」
額を寄せ、低く囁く。
「今度は、俺のすべてを賭けて誓う。
お前と、蓮を守ると」
二年前よりも、ずっと重く、ずっと甘い言葉。
信じてはいけないと分かっているのに。
勇気の瞳に宿る真摯な光に、
萌香の決意は、音もなく揺らぎ始めていた。