これはもはや事故です!
 磯崎は、すぐに否定しなかった。
 叱りもしなかった。

 代わりに、少しだけ声を落とす。

「……美羽さん」

「はい……」

「ここにいていい理由なんて、作らなくていいんだ」

 美羽の喉が、きゅっと鳴る。

「でも……」

 言いかけて、止まる。
 
「何もしなくても、一緒にいるだけで、安心するってこともあるだろ」

 磯崎から優しい言葉をかけられ、美羽は、胸の上に手を当て、視線をさまよわせた。

「……じゃあ……」

 そう言いかけた美羽だったが、恥ずかしいのか、一瞬のためらう。

「……今日は、一緒に、テレビ見てても……いいですか」

 ほとんど囁きだった。

 何かをしてあげたい、ではなく。
 役に立ちたい、でもなく。

 『一緒にいてもいいか』という、ただそれだけのお願い。

 磯崎は、わずかに目を細めた。

「……それでいい」

 短く、でも迷いのない声。

「むしろ、そっちの方が助かる」

「……え?」

「同じ空間にいる方が、安心する。だから、一緒にいてほしい」

 美羽の胸の奥が、じんわり熱くなる。

(……いていい、じゃなくて……いてほしい、って……)

「……はい」

 小さく返事をすると、磯崎は何事もなかったようにリモコンを手に取った。

「足、楽な姿勢でな」

 それだけ。

 でも美羽は、初めて、素の自分のまま、そこに居られた気がした。


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