これはもはや事故です!
 深夜の冷たい外気が肌に触れる。美羽は彼の温かな腕の中。
そのコントラストを妙に意識してしまう自分がいた。
 オリエンタルノートの香りがふわっと鼻先をかすめて、変なところまで熱くなる。

「ちょっと、首に手を回してつかまってて」

 磯崎はオートロックの前で立ち止まり、片腕だけで美羽を支えながら、もう片方の手でカードキーをかざす。

 その姿があまりにも自然で、“抱き慣れてるの?”なんて余計な考えが美羽の脳裏に浮かび、心をざわつかせる。

「大丈夫?エレベーター、こっちだから」

 美羽を抱き上げたまま、磯崎は足を進めた。
 高級マンションらしく、夜でも照明が柔らかくて落ち着いた雰囲気だ。

 美羽の顔は、彼の肩より少し上。
 呼吸をするたび、彼の体温が近すぎて、どこに視線を置けばいいかわからない。

(ひとり暮らしで困ってるのは事実。でも……でも!)

「……あの、ほんとに、変なことしないでくださいね?」

「しないよ」

 秒で返された。
 しかも完全ノータイムの真顔で。

「信用できない?」

「……正直、ちょっと……」

「だろうね」

 軽いのか重いのか分からない返事。
 けれど、磯崎は怒っても笑ってもいなかった。

「でも、今日くらいは俺を信用してもいいと思うよ」

 その声音は、妙に静かで、逃げ場のないほどまっすぐだった。


 
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