これはもはや事故です!
 エレベーターに乗ると、四角い密室に二人きり。
 壁にある大きな鏡が二人の距離の近さを反射して、余計に意識する。

 静寂の中“ピッ…ピッ…”と階数表示が点滅していた。

(近い……近い……!!)

 視線をそらそうと下を向く美羽の目に、磯崎の手が、太ももの下でしっかり支えているのが見えた。

(だめだ、これ見ちゃいけないやつ。
 余計に意識して緊張する。
 こんなのドラマの中だけの出来事じゃないの?)

すると、美羽の心を見透かしたように、磯崎の声がかかる。

「そんなに緊張しなくても、大丈夫だよ」

「し、してません!」

「嘘つき」

 クスッと、小さく笑う声が耳元に響く。

 (その声、反則すぎる!)



 部屋の前まで着くと、ピッと鍵が開く音。
 抱き上げられたまま、美羽は静かな部屋の中へ運ばれる。

 玄関の照明が灯り、温かい光が足元へ落ちた。

「うち、散らかしてないから安心して」

「そういう問題じゃ……」

「大丈夫。君のことはちゃんと責任とる」

 その一言に、思わず息が詰まる。

 “女たらし”と呼ばれる男の言葉とは思えないほど、本気で、誠実で、強い。
 妙な説得力に美羽は、返す言葉を見つけられなかった。

弁護士、恐るべし!

 頼らざるを得ない現状 VS まだ完全には信用できない警戒心。
 その狭間で、美羽の心は大きく揺れていた。

 抱えられたまま玄関の先へ。
 外の世界が完全に閉じ、静寂がふたりを包む。
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