これはもはや事故です!
「事務所に行く準備をして来る。少し……待ってて」

 磯崎はそう言うと、寝室の奥へと消えていった。
 部屋にひとりになると、何だか落ち着かなくて、そわそわしてしまう。

 しばらくして、寝室の扉が開いた。

「お待たせ」

 振り向いた瞬間、息が止まった。

 そこに立っていた磯崎は、濃紺のスーツに真っ白なシャツ。
 ネクタイを指先で軽く整えながら歩いてくる姿は、まるで雑誌から抜け出したモデルみたい。

(……え、ちょ……弁護士モードって、こんなにカッコよかったっけ?お店のお客様で見てた時よりもカッコいい……ドラマの主人公まんまじゃん)

 美羽の視線に気づいたのか、磯崎が少し眉を上げた。

「変じゃない?」

「へ、変じゃないです!!」

 即答だった。
 むしろ今まで見た中でいちばんかっこいい。

「そうか。よかった」

 ネクタイを締め終えて、磯崎は腕時計を巻きながら淡々と続ける。

「事務所に行って来るよ。まずは二人を呼び出して、二度と近づかないように話しをする。それでも応じなければ……警察に届けを出そう」

 美羽が小さくうなずくと、磯崎は視線を合わせた。

「不安にさせてごめん。でも……これは美羽さんを巻き込んだ俺がやるべきことだから」

「……はい」

 そう答えると、磯崎は小さく柔らかく笑った。

「ケガしてる美羽さんを一人にしたくないけど……留守番、できる?」

「できます……!」

 本当は少し心細い。
 でも、美羽はそれ以上に磯崎を信じたかった。

「何かあったらすぐ電話して。キッチンの冷蔵庫にいろいろ入れて置いたから」

「……はい」

 扉に向かう直前、磯崎は一度だけ振り返った。
 いつもの柔らかい雰囲気ではなく、真っ直ぐな強い眼差し。

「……必ず、片をつけてくる」

 低く落ち着いたその声に、胸がじんわり熱くなる。
 静かに玄関の扉が閉まり、リビングに残された美羽はしばらく動けなかった。


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