これはもはや事故です!
 白石の表情が一瞬、怯えと反発で揺れたが、磯崎はその気配を逃さない。

「金額が高いと思うかもしれませんが、これは罰ではありません。責任です」

「そんなの……」
「そうよ、ムリだし……」

この期に及んで、反省の無い二人の態度に磯崎の語気が強くなる。

「この件に関しては、一歩も引くつもりはない。示談が成立しなければ、とことんまでやるつもりだ」
 
 その低い声に、白石と藤咲はようやく磯崎の本気を感じた。このままゴネれば過失傷害罪での刑事告訴もある。二人は、肩を落とし抵抗をやめた。

「わかりました……」
「サインします……」

 白石と藤咲は、震える手でペンを握った。
 二人が署名したのを確認し、磯崎は静かに資料を閉じた。

「これで示談成立です」

 白石はうつむきながら、ぽそりと呟いた。

「もう、誠さんにも会えないなんて……」

その横で藤咲はすすり泣く。

 肩を落とす二人の姿を見ても、胸の奥に残る怒りは消えない。
 むしろ、今だからこそ、言わなければならないことがあった。

 磯崎は静かに立ち上がり、二人を見据えて告げた。

「……最後に、一つだけ言っておく」

 白石は赤くなった目を見開き、藤咲は震えながら息をのんだ。

「恋愛感情を持つこと自体は、誰の罪でもない。だが、その感情を免罪符にしていいと思った瞬間、あなたたちは他人を傷つける存在になる」

 白石の肩がぴくりと揺れる。

「あなたたちは自分の気持ちばかりを優先し、他人の人生や安全を踏みにじった。そして今もなお、自分が傷ついた側のように振る舞っている」

 言葉を強めず、淡々と告げた。
 その静けさのほうが、二人にはこれ以上ないほど刺さる。

「その未熟さを、自覚してください」

 白石は目を伏せ、藤咲は泣きながら唇を噛んだ。

 磯崎は最後に、事務的な口調へ戻す。

「これ以上、自分のエゴで誰かを傷つけない事を心の隅に留めて置いてほしい。……それが、今回の件であなたたちが学ぶべき唯一のことです」

 沈黙の中、二人はただ小さく頷くことしかできなかった。

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