これはもはや事故です!
「あの、磯崎さん、いろいろ戸惑ってしまって……。変な態度を取ってごめんなさい。そして、示談の件、ありがとうございます」

 こんなに早く示談にしてくれたなんて、磯崎の努力があったからだ。
 自分の気持ちは、さて置き、お礼だけは伝えなければと、美羽は頭を下げた。
 すると、磯崎はホッとしたように息をつき、次の瞬間何かを思い出したように顔を上げた。

「そうだ、渡すものがあったんだ。ちょっと、待ってて」

 そう言って、磯崎はリビングから出て行くと、直ぐに両手にいっぱいの荷物を抱えて、戻って来た。

「……え?」

 思わず美羽の口から声が漏れる。

「これ。買ってきた」

「か、買ってきたって……?」

 磯崎は紙袋をテーブルの上に置きながら、少しだけ照れたように視線をそらした。

「着替えと、部屋着と……最低限必要そうなもの。事務所の千草に頼んで、選んでもらった」

「……っ」

(え、待って……そんな……こんなに……いっぱい……?)

 紙袋の口から見えるのは、ふわふわのルームウェア、肌触りのよさそうなパジャマ、インナー類。そして、外履き用のサンダルまである。

「気に入るかわからないけど……」

 そう言って、磯崎はごく自然に視線を落とす。

 その横顔が、ずるいくらい優しかった。

「こ、この……量……全部……?」

「ああ。必要なものはしばらく揃えておきたかったから」

「しばらく……」

 その言葉に心が変に跳ねる。

(ち、違う……そういう意味じゃないのは分かってるけど。でも、なんか……ここに居ていいって言われているみたい……)

 
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