離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。
「そうだ! この場で婚姻届を書くのはどうですか?」
「な、夏芭……!」
「私婚姻届持ってきてるんです」
夏芭が見せたのは正真正銘の婚姻届だった。
一体いつの間に用意したというのだろう。
六花は慌てたが、一同は皆大賛成だった。
「おお、素晴らしいアイデアだ! 家族に見守られながらとは、素晴らしい」
特に國光は大いに喜んだ。
「では証人欄は私と涼風さんで記載しましょうか。父親同士、ということで」
「それは良いですね」
章久と宏海はすぐに胸ポケットから万年筆を取り出し、準備万端だと言わんばかりに六花と惺久を見ている。
二人の目の前に婚姻届とペンが差し出され、もはや後に退けない状況となっている。
「……まあ、いつ書こうが同じだし証人欄もまとめて書いてもらえて手間が省けたな」
「夏芭がすみません……」
「いや、君の“妹”は気が利くよ」
惺久は楽しそうに笑いながらペンを握り、スラスラと達筆な字で記入し始めた。
次に六花も記載した。自分の名前を書くことにこんなにも緊張したのは初めてだった。
その日のうちに役所に提出し、受理された。
とても機械的に終わってしまった。
「終わったな」
「あっさりでしたね」
「向こうにしてみれば毎日の事務的な作業だからな」
「そうですね」
まだ実感はないが、この瞬間を境に糸井六花から永瀬六花に変わった。
「これからよろしく、奥さん」
冗談めかしたように笑った惺久に、この人が夫になったのかという緊張感とときめきで六花の心臓がうるさく鼓動していた。