海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
川へとせっせと石を投げ込んでいた兵士たちが「決壊したぞ!」と騒ぎ立てる中―⋯。

私たち二人は、ただ黙ってその水の行方を見守っていく。

そして、チラリと⋯互いに、互いの顔を見た。

その場しのぎなのかもしれない。
けれど⋯意図的に誘導した泥水は、何もない低地へと分流されて。

水を―⋯いなす。
そう。一時的に、その勢いを失ったのだ。

「有昧王。これはただの急場しのぎに過ぎない」

「⋯⋯人手がいる。その先のことも考えれば、力のある勢力を引き込む他ない」

「同意だけれど⋯アテはあるの?」

「交渉次第だ」

「そう。なら⋯早く行って。何とか時間を稼いでおく」

「お前にはそれができると?」

「策はある。使える者は何でも使う。それに⋯この先の布陣も出来上がっている。ただ、それにも人が必要」

「燭陰に会って説得でもしたか」

「いいえ。それは私の役目ではない。あくまでも⋯物理的な解決方法。オーバーヒートした彼を救う手だてに、情は無用」

「⋯⋯お前に任せよう。川を抑えるのはどれくらいもつ?」

「一刻、いいえ⋯半刻ほど。貴方が帰って来たら、あっと驚く陣を⋯見せつける」

「できるのであれば、やってみよ」

氷のような、冷たい微笑を浮かべて⋯浮游はその姿を消した。

今この場に、思いを共有する者は⋯いない。
それでも、やり遂げる他⋯ない。


「海棠、有昧王の言う通り重石を入れてやってるけど⋯これだけじゃあ持たないぞ」

福はまだ回復もしていない体で、息を切らし⋯ふさふさの尻尾に、そして⋯ピンと立つ耳までも露呈している。

「重石⋯ね、川底の摩擦を増やして流速を落とそうって訳か」
こうすれば⋯洗掘を少しでも防げる。



浮游が連れて来たのであろう、有昧の兵士たちと現地の北溟軍は⋯各部隊に分かれて、既に王の命を遂行すべく奔走している。

見渡せば、視野を遮る霧の中から―⋯沢山の声が聞こえてくる。

氾濫により道が分断された時の為に⋯食料や貴重品を高地へと運び上げる輸送部隊。

食料の食い散らかしや疫病を媒介する害虫の駆除に⋯燻煙を焚き、その黒煙で別部隊への合図を送る、駆逐部隊。

暴動化した獣や鳥類⋯妖怪を抑える討伐部隊。

死地と化した、この地獄のような惨状を⋯粛々と片付けていく、移送部隊。

怪我した者や事故に巻き込まれた者に対峙する救護部隊。

そして、最も人員を割くのは⋯川の氾濫を防ぐために体を張る、治水部隊。

まるで⋯戦争や災害時に見るような、緊迫した絵図だ。

そして⋯、有昧王はやはり私と同じ視点で、この事態を見ていたのだろう。

燭陰の周りを飛び交う愚強が―⋯冷風をひたすらその体に吹かせて。大きな翼を団扇のようにして扇いでいる。


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