海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
フワフワとゆっくりと下降していた身体は、不意に、プツン!と何かが弾けるような音がした、ソレと同時に⋯
まさに急転直下。

叫ぶ暇も許されず、あれよこれよと、真っ白な霧に吸い込まれていって。
けれど⋯それを力づくでねじ伏せるような突然の熱波と共にこの身体を奪ったのは。言うまでもない。

浮游であった。


彼はまるでボロ雑巾を肩で干すかのように私を担いだまま―⋯何の驚きも、疑問すらも口にすることなく。

彼は有昧の弓を⋯キリ、キリと狙いを定めている。


「昨夜お前は私に言ったな。これを⋯見越して言っていたのであろう」

「⋯⋯⋯?」

驚きも、疑問も抱えているのは、こっちの方だ。
開口一番、心配するどころか⋯なんのこっちゃの話をされているのだが?


「禹王の他に、治水に長ける者が【もう1人いた】と。地上げで湿害防いで、水の逃げ道も造る⋯。それは、禹王の治水そのものだ。なのに⋯」

「⋯⋯。共工(きょうこう)のこと?共工の堤防がなければ、そもそも禹王の導水は完成できないでしょう?今の日本の流域治水は、この両者の功績をなくしては語れないのだけれど⋯偉そうに言ったけれど、これ、実は当たり前の概念」

やはりこの(ひと)が、既に動き出してたってことか。
誰よりも理解が早く、想定を上回る⋯知略の持ち主。いや、それよりも―⋯この治水という事業を知らぬ者が手を出せるものじゃあない。
歴史上の偉人が成したことを、この人ができる?

なぜ⋯知っている?
これが博益であれば、納得もできる。

そもそも⋯、博益とも愚強とも旧知の仲であるのなら、この男もまた―⋯よもや、夏王朝における偉人なのか?


「⋯Google先生が恋しいわ」
検索エンジンにて真っ先に打ち込む文字は⋯一択だ。そうしたら、AIで深掘りして彼の全てを攻略してやるのに。

そうしたら。きっと一発で、仕返しできる。

「ぐぐる、とやらに聞かねば、お前のその妙な勘は発動しないのか?」

「Google⋯、ぐぐる師父の足元にも及ばないけど⋯貴方が狙ってるその場所は、ほんの1メートルほどずらした方が効果的。さっきここの地理を確認したけれど⋯最も水圧がかかり、なおかつ安全に放つ場としてはあそこが最適。有昧王。わかってるのに、試したでしょう」


浮游が弓を引く音に、更に力が籠る。
見据えた⋯一点。そこから、1ミリもズレぬほどの正確な軌道で⋯矢が放たれていく。

当たった先、その川の堤防が欠損して⋯噴水の如く、泥水が一斉に噴き上がった。


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