海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
川へとせっせと石を投げ込んでいた兵士たちが「決壊したぞ!」と騒ぎ立てる中―⋯。

私たち二人は、ただ黙ってその水の行方を見守っていく。

そして、チラリと⋯互いに、互いの顔を見た。

その場しのぎなのかもしれない。
けれど⋯意図的に誘導した泥水は、何もない低地へと分流されて。

水を―⋯いなす。
そう。一時的に、その勢いを失ったのだ。

「有昧后。これはただの急場しのぎに過ぎない」

「⋯⋯人手がいる。その先のことも考えれば、力のある勢力を引き込む他ない」

「同意だけれど⋯アテはあるの?」

「交渉次第だ」

「そう。なら⋯早く行って。何とか時間を稼いでおく」

「お前にはそれができると?」

「策はある。使える者は何でも使う。それに⋯この先の布陣も出来上がっている。ただ、それにも人が必要」

「燭陰に会って説得でもしたか」

「いいえ。それは私の役目ではない。あくまでも⋯物理的な解決方法。オーバーヒートした彼を救う手だてに、情は無用」

「⋯⋯お前に任せよう。川を抑えるのはどれくらいもつ?」

「一刻、いいえ⋯半刻ほど。貴方が帰って来たら、あっと驚く陣を⋯見せつける」

「できるのであれば、やってみよ」

氷のような、冷たい微笑を浮かべて⋯浮游はその姿を消した。

今この場に、思いを共有する者は⋯いないのかもしれない。
それでも、やり遂げる他⋯ない。


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