海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
福は、男達が周囲から離れていったそのタイミングで⋯私に駆け寄ってきて。こっそりと⋯耳打ちしてくる。
「海棠、今すぐだ。今すぐ急いで⋯帰ろう」

とても焦っている⋯様子。
その心配が、杞憂であると思いたかった。けれど⋯


「海棠殿。貴方はやはり有昧伯の友人なだけに、相当な才をお持ちのようだ」

気づけば⋯、左の腕をぐっと掴まれて。
身動きできなくなっていた。
私が指導するように仕向けた、あの兵士だ。

「⋯⋯友人ではない、と先程⋯」

「ええ。けれど、利のない者を近くに置くはずもありません」

「⋯⋯⋯」
(この者は⋯一体、何者?)

腕輪は、全く反応することもなく⋯、そして、福も、声すら出せずに⋯その場に静止していた。


「少しだけ、私にお付き合い願います」
と、男がそう言ったのとほぼ同時に。

ぐいん、と身体が急激に浮かび上がり⋯⋯上空へ、さらに上空へと昇っていく。

「き⋯、きゃあああああ〜??!!!!」
出したことがないような声が出て、コントロールを完全に失った体が猛スピードで空を切っていく感覚に⋯咄嗟に、何かを掴もうと、手を伸ばす。

掴んだ何かをぎゅっと握りしめて、振り落とされぬように⋯。

⋯と、ぬるりと奇妙な感触がして

(ん?何を⋯掴んだ?)

恐る恐る薄目を開けると⋯。
「⋯⋯⋯!!!」

ぎゅっと掴んだ長い体のソレが、頭をこちらに向けて⋯気味の悪い舌を出し入れしながら⋯睨んでいた。

青い色をした⋯蛇だ。

そうだとしても、ここは空の上。
(離して落ちても死、噛まれても⋯死?)

にらめっこを続けながら⋯間接視野で、ぼんやりと全体を捉えていく。

私が今いるここは⋯、巨大な⋯鳥の背中。
この蛇は、鳥の顔の側面から⋯両側に一匹ずつ。

物凄いスピードは、ジェットコースターの比ではない。安全装置など⋯ない。

今掴んでいるコレが、命綱だ。


すると⋯その鳥が、急に喋り出す。
「海棠殿。その者たちに咬まれぬように」と⋯呑気に忠告したのだ。




()くして、私が私であるが故に⋯⋯捕まってしまったこの失態に。

平和な道が⋯待っているのだろうか。







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