海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
3.5章 〜The other side of the story〜
浮游〜9つの顔をもつ男〜
海棠が福と共に、大河を眺め語らっている頃―⋯
浮游は、かつて己が住んでいた西の果ての地⋯崑崙山の麓を訪ねていた。もう決して入ることも、見ることすらも叶わぬ⋯都だ。
この崑崙山には、神や仙人が住み⋯下界と天上界とを結ぶ、梯子であり、楽園でもあった。神獣や不老不死の実になる木。人間から見れば⋯辿りつくこともできない神聖なる場所だ。
浮游は複雑な思いで、見えもしないその場所を⋯ただ眺めるのだった。
浮游は、自分の父や母など知らない。神獣として生を受け、それと同時に⋯北の荒地に送られ、その素質を監視される対象であった。
「天妖界全土、そして崑崙山の時節を司る者」として⋯育たなければ。故郷の地に戻ることも許されない。
生まれながらにして、決まった道を正しく歩まねばならぬ⋯存在だった。
彼にとっては⋯そんなことは知らぬこと。
幼子であった彼の記憶のはじめとなったのは⋯長閑な田舎の風景であった。
その地の部族の者たちは、玉のように美しく愛らしい見た目の彼を、部族に舞い降りた天子として、それはそれは⋯可愛がり。
彼が突如現れたその不思議な出会いを名前にして⋯【浮游】と親しみを持って呼んだ。
だから⋯彼は自分が浮游であると、疑うこともなかった。
人々が貧しく、それでも必死に汗水流し耐え忍んでいることは⋯幼い彼にも理解できた。
当時部族の長となった洶工は、そんな人々に農業を教え、農具を作り、農工を発展させ部族を盛り立てていった功労者であった。そんな彼に教えを受け手伝いする浮游は、やはり目をかけてもらい⋯まるで父子のような関係性を築いていく。
同時に⋯かけがえのない友もできた。
築水のために作った池に傷だらけになって捨てられた、幼蛇を⋯彼が気の毒に思い、洶工と共に救ってやったことがきっかけだった。
名は、相柳。
幼くして高い妖力を持った、才知に長ける妖蛇であった。
浮游と相柳の性格は、どこか似ていて、どこか正反対でもあった。
人々の心の中を読み解く浮游は、洶工の思いを汲んで⋯上手く人々を説得させていく力があった。時には、中立的な立場をとり、洶工へと進言することもあった。
一方の相柳は非常に冷静で、人との距離を置き⋯策略を巡らせるのが得意であった。
浮游は、かつて己が住んでいた西の果ての地⋯崑崙山の麓を訪ねていた。もう決して入ることも、見ることすらも叶わぬ⋯都だ。
この崑崙山には、神や仙人が住み⋯下界と天上界とを結ぶ、梯子であり、楽園でもあった。神獣や不老不死の実になる木。人間から見れば⋯辿りつくこともできない神聖なる場所だ。
浮游は複雑な思いで、見えもしないその場所を⋯ただ眺めるのだった。
浮游は、自分の父や母など知らない。神獣として生を受け、それと同時に⋯北の荒地に送られ、その素質を監視される対象であった。
「天妖界全土、そして崑崙山の時節を司る者」として⋯育たなければ。故郷の地に戻ることも許されない。
生まれながらにして、決まった道を正しく歩まねばならぬ⋯存在だった。
彼にとっては⋯そんなことは知らぬこと。
幼子であった彼の記憶のはじめとなったのは⋯長閑な田舎の風景であった。
その地の部族の者たちは、玉のように美しく愛らしい見た目の彼を、部族に舞い降りた天子として、それはそれは⋯可愛がり。
彼が突如現れたその不思議な出会いを名前にして⋯【浮游】と親しみを持って呼んだ。
だから⋯彼は自分が浮游であると、疑うこともなかった。
人々が貧しく、それでも必死に汗水流し耐え忍んでいることは⋯幼い彼にも理解できた。
当時部族の長となった洶工は、そんな人々に農業を教え、農具を作り、農工を発展させ部族を盛り立てていった功労者であった。そんな彼に教えを受け手伝いする浮游は、やはり目をかけてもらい⋯まるで父子のような関係性を築いていく。
同時に⋯かけがえのない友もできた。
築水のために作った池に傷だらけになって捨てられた、幼蛇を⋯彼が気の毒に思い、洶工と共に救ってやったことがきっかけだった。
名は、相柳。
幼くして高い妖力を持った、才知に長ける妖蛇であった。
浮游と相柳の性格は、どこか似ていて、どこか正反対でもあった。
人々の心の中を読み解く浮游は、洶工の思いを汲んで⋯上手く人々を説得させていく力があった。時には、中立的な立場をとり、洶工へと進言することもあった。
一方の相柳は非常に冷静で、人との距離を置き⋯策略を巡らせるのが得意であった。