一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「皆様、ご心配おかけしまして申し訳ありません。赤石さんのお陰で、この通り鼻血も止まり業務を遂行することができます。ありがとうございました」
 
 出発したバスでお客様にお詫びをすると、また拍手を頂いた。
 
 マイクを蛯原さんに渡して、座席に座ろうとしたら目眩がした。
 
 まぁ、あれだけ出血したんだから、貧血になっても当然といえば当然。
 
「次に通ります、″ 母智丘(もちお)公園 ″は、日本の桜名所100選にも選ばれおり、2㌔の桜のトンネルは、もし、満開ならば言葉を失うほどの絶景でございました……」
 
 蛯原さんのガイドと同時に、殆ど散ってしまった桜の並木道をバスがゆっくりと通っていく。
 今回の旅はほとほと桜に恵まれない。
 
「満開の時に来る楽しみをとっておこうかねぇ」
 
 けれど、誰も詐欺だとか、金返せとは、もう言わなかった。




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