一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
第一章 紫都と散り桜
 今回の仕事のツアー名。

 【九州桜の名所巡りツアー二泊三日の旅】

 参加のお客様が全員バスに乗車した所で、高過ぎず、低過ぎない声を意識して挨拶する。


 「このバクチのようなツアーの添乗員として同行させて頂きます、桑崎(くわさき)紫都(しづ)と申します。至らない所があるかと思いますが、皆様の旅を精一杯サポートさせて頂きますので、三日間宜しくお願い致します」
 
 
 「よろしくお願いしまーす!」
 
  ツアー慣れしたお客様が拍手までくれた。

 「恐縮です」 と言いながら、ガイドの蛯原(えびはら)優子(ゆうこ)さんにマイクを託した。
 
 「皆様、おはようございます。本日は南部観光バスのツアーにご参加くださりありがとうございます。また、肌寒い中、朝早くからお集まりくださり、ありがとうございました。それでは、本日の日程をーー」
 
 少し酒ヤケしたような声だが、アラフォーらしく落ち着いたガイドさんだ。
 ベテランさんで良かった。

 何故なら、今日のツアーは始まる前から気が重かったからだ。



 
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