一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「あ、角曲がったら広い路地があるので、そこでいいです」
 
 この時間で自宅付近だと、お母さんと遭遇する可能性がある。
 
「ま、ここならイノシシもいないだろ」
 
 岡田は、素直に指示場所に車を止めてくれたけど、本当は、少しでいいから、後ろ髪引かれる素振りを見せて欲しかった。
 
 
「お疲れさまでした………」
 
「ん」
 
  私がドアを開けて降りようとしたら、
 
「あ、おい」
 
  岡田が私の肩を掴んだ。
 
「………なに?」
 
  つい、期待して口元が緩んでしまう。
  次の約束を。
 
「昨夜、むくれてただろ? 酒、独り占めするなって。後ろに積んであるの、持っていけよ」

  お酒………。
 
「私、そんなにむくれてました?」
 
「あぁ、あれはあれで面白かったけどな」
 
  面白いって、それも微妙だ。
 
 いっそ、今、アルコールを飲んだら、昨夜みたいに素直になれるのに。

「ありがとう。頂きます」「あぁ」
 
 愛想笑いを作って、袋の半分のお酒を持ち、車のドアを閉める。
 
「じゃあ、気を付けて」
 
 貴方がどこに帰るのかも知らないけど。
 
 
 その時。
 ふと、背後に人の気配を感じた。


















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