重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~

 昊は恋愛に興味がない。
 時間も感情も、全て任務に注ぎ込むべきだと信じている。
 実際これまで誰かと深く関わったことはない。
 航空自衛隊時代も、JSEAに移ってからも、彼の生活は訓練と研究で埋め尽くされていた。

(恋愛は非効率。感情に振り回されることで、判断が鈍る。それは空を飛ぶ者にとって致命的なリスクだ)
(だが今、その“非効率”を受け入れることが、任務の一部になった)

 会議が終わると、昊は無言で立ち上がり、訓練室へと向かう。
 彼の足音が、静まり返ったフロアに淡く響く。

 スマートフォンを取り出し、母親の名前をタップする。
 呼び出し音が三度鳴った後、懐かしい声が応答した。

『あら、どうしたの? 珍しいわね、昊から電話なんて』
「……母さん。悪いが、一つ頼みがある」
『うん?』
「お見合いを、セッティングして貰いたい」

 一瞬の沈黙。
 その後、受話器の向こうで母が小さく息を呑む音がした。

『……え? 今なんて?』
「結婚が必要なんだ。任務のために」
『任務の……? ちょっと、意味が分からないんだけど』
「USSAとの合同プロジェクトに選ばれた。だけど、条件が“既婚者であること”なんだ」
『……それで、結婚?』
「あぁ」

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