重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~

 母は何かを考えるように、口を閉ざした。
 昊はその沈黙を責めることも、急かすこともせずに待った。

『……昊、本当にそれでいいの?』
「任務に必要な条件だから、問題ない。それに、結婚生活については、JSEAの資料で一通りシミュレーション済みだ」
『……ちょっと待って、何をシミュレーションしたの?』
「炊事、洗濯、家計管理、感情的な衝突の頻度と対処法……」
『あんた、恋愛をExcelで管理する気!?』
「Excelではない。Pythonで自作した」
『……もう、やめて。お母さん、頭痛くなってきたわ』

 母は溜息を吐いた。
 その音には呆れと心配と、ほんの少しの諦めが混ざっていた。

『……分かったわよ。探すだけ探してみるわ。でも、昊を受け入れてくれる人なんて見つかるかしら……。それに、もし見つかったとして、ちゃんと顔合わせて話せる? 相手のこと、ちゃんと見なくちゃダメだからね?』
「……あぁ、それは問題ない」

 通話を終えた後、昊はスマートフォンをポケットに戻し、窓の外を見上げた。

 冬の空はどこまでも澄んでいた。
 その向こうに広がる宇宙は、彼にとって“夢”ではなく、“行くべき場所”だ。

(だがそのためには、地上に“繋がり”を持たなければならない。誰かと、人生を共有するという選択を俺は今、初めてしようとしている)

 それが、彼の軌道を僅かに変えることになるとは、まだ知らずに——。

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