これを恋と呼ばず何と呼ぶ

【春優李】

　部屋の窓から朝の日差しが差し込み、外では鳥がちゅんちゅん鳴いている。

そろそろ家を出る時間かな。

そう思って私は持っていた漫画をパタンと閉じ、本棚にしまった。それから鞄の支度を始めた。

「あぁ～やっぱ恋してみたいなぁ～・・。」

春優李(はるゆうり)、高校1年生！趣味は恋愛漫画を読むこと！なんなら漫画オタク！

　特に今はまっているのは、「これはバグです」！ゲームにしか興味がなかった女の子が、チャラい男子と一緒に本当の恋を見つけていくっていうお話！もう少しでアニメが放送される大人気の恋愛漫画！

　私の推しは主人公と本当の恋を見つけていくチャラい男子の朝比奈くん！ビジュアルがもう最強なんだよね～！！あーぁ。朝比奈くんみたいなチャラいけど本当は優しい男子、現実でもいないかなぁ～・・。

　恋愛漫画を読むと、いつも胸がドキドキして、熱くなる。この気持ちの名前は何なんだろう・・？といつも思っているけど、そんな感覚が私は、心地いいと思っている。

「ゆうりー！遅れるよー？」

下の階からお母さんがそう言った。

え、まだ学校に遅れるような時間になってないよね？

そう思って時計をパッとみた。

午前7時9分。

「あ、やっば！」

　気づいたらもう家を出なくてはいけない時間だった。電車通学の私は、少しでも家を出る時間をミスると電車に乗れず、次に来る電車は学校の登校時間の5分前。なので、学校に遅れてしまう。4月から今日まで私は一度も遅刻していない。だから絶対間に合わせたい。

「行ってきます！」

　私は、家を出るなり、猛ダッシュで駅に向かった。駅は私の家から7分くらいのところにある。今日は4分出る時間が遅れてちゃってるから急がないと遅れちゃう・・！！

　なんとか駅に着いたけど、油断してはいけない。私はダッシュで改札のところに向かい、カードをタッチした。

「まもなく三番線にー・・。」

ホームに電車がついたことを知らせるアナウンスが響く。

「よかったぁ・・。まにあった・・。」

　が、ここからも勝負なのである。

　乗客者による、座れる場所争奪戦が始まるのだ。

　たぶん私と同じ電車に乗るであろう人たちがダッシュで電車の中に乗り込む。私も負けじと走ったが、もう座れる場所は全部埋まっていて、私はドアの入り口付近のところの手すりに摑まることにした。

　車内は通勤、通学の人であふれかえっており、もうギュウギュウである。私もドアの手すりに摑まれてはいるけど、スーツを着た会社員さん？の背中に背負っているリュックに押しつぶされそうになっている。

　あぁ～漫画見たいないい出会いがありそうだから電車通学で通える学校にしたのに・・。登校の時、電車の中に人が多すぎて窮屈な時間を過ごしてるだけじゃん・・。なんなら早起きして、早く家でなきゃいけないし・・。

　押しつぶされながら、ふと私の視界に、整った顔、金髪、耳にピアスとイヤホンをつけ、背中をピンとして、目から30cmくらいスマホを離して、真剣にスマホを見ている男子がいた。

　30cmスマホ離してる人初めて見た・・。ていうかなんでその人が腕を伸ばしているところだけ空間空いてるの！？私はギュウギュウ押しつぶされかけてるのに！？ていうか、制服同じだよね！？学校一緒じゃん！あぁ、押しつぶされずに学校まで行けるなんて羨ましい～！！ていうか見た目金髪でピアスしてるからチャラく見えるのにスマホ30cm空けてみてるのギャップありすぎ！こんな人うちの学校にいたんだー・・！

　彼をガン見しながら心の中でいろいろ彼について思っていると、彼と目が合った。

「ーっ・・！」

　目が合うとは思っていなかったので、ドキッとしてしまった。しかも、彼のビジュアルが・・。

「これバグ（これはバグです！）」の朝比奈くんにめちゃくちゃ似てるんですけどー！？え、まって・・。こんなビジュアルの人ってうちの学校にほんとにいたの！？もしかして漫画である、転校生・・！？

またまた心の中でいろいろ考えていたら、彼から手招きをされた。

「え？！私・・？」

そう思い、自分自身に指をさし、口パクで

「わ・た・し・で・す・か？」

と言う。

これでちがかったらだいぶ気まずいけど・・。

彼は少しびっくりして、その後にふっと笑った。そして、

「そ・う」

と口パクで言った。

　これは、なんなの・・！？少女漫画とかでありそうな、このシチュエーションは・・！？

　もう一度彼は私を手招きした。人混みの中を通って彼のところへ行くのは行くのは面倒だなと思ったけど、朝比奈くん似の男の子の頼みなら・・！そう思って私は人々を押しのけて彼のところへ行った。

「な、何でしょうか・・？」

やばいやばい。ほんとに朝比奈くんに似てるんだけど・・！？

「ここ、座れば？」

「へ・・？」

「俺、座り飽きたからさ。それともー・・」

彼は私の耳に近づき、

「俺の膝の上に座りたいの？」

と言った。

ー今日が命日？

え、リアルでこんな漫画みたいなことあるの・・！？わたしほんとに今日命日でも大丈夫なんだけど？

「え、でも申し訳ないですし・・。」

「別にいいよ。君みたいなかわいい子ならね。」

「ーっ！！か、かわ・・！？」

なんですました顔でサラッとそんなことが言えるんですかー・・！？

「じゃ、じゃぁ、お言葉に甘えて座らせていただきます・・。ほんとにありがとうございます・・！！」

「うん。お礼は君の笑顔でいいよ。」

「・・っへぇ・・！？」

「うそだよ。何の対価もいらないから。おとなしく座って学校に行くんだよ？」

そう言って彼は人混みの中に消えていった。

バクバクと心臓の音がうるさい。顔が熱い。スマホのインカメで自分の顔を見る。そこに映る私の顔はリンゴみたいに真っ赤だった。

「リアル、朝比奈くん・・！」

私はぽつりと呟いた。