青に溶ける、きみ。
こんなに距離が近かったら、きっとどちらかの心が先に音を上げると思っていた。
先生なんて呼ばれてしまったけれど、私が隣にいるせいで晴海の集中を奪ってしまうんじゃないか、とか。
窓の外では入道雲がゆっくりと空を押し広げていて、網戸を抜ける風が、まだ新しい夏の匂いを部屋いっぱいに運んでくる。
そんな季節の真ん中で、私だけが落ち着かない。
だけど、いざ始めてみると、心配していたことは拍子抜けするくらい何も起こらなかった。
むしろ驚いたのは、晴海の姿勢だ。
普段は飄々としていて、何事も軽く受け流してしまいそうなのに、問題集を開いた瞬間、その横顔から余計な色がすっと消える。
シャープペンを走らせる音だけが静かな部屋に響いて、時折ページをめくる音が、夏の風鈴みたいに耳へ転がる。
こんな一面もあるんだ、と胸のどこかが小さく揺れる。
集中できないのは、きっと私だけ。
文字を追っているはずなのに、視線は何度も隣へ迷い込んでしまう。
長いまつ毛も、少し癖のある前髪も、真剣に考えるたびに寄る眉も、全部が夏の光に溶け込んでいて、見つめるほど輪郭がぼやける。