青に溶ける、きみ。
「夏井」
「うん?」
名前を呼ばれただけで心臓が小さく跳ねる。
「この公式さ、もっと覚えやすくなんないの?」
困ったように眉を下げて数学へ文句を言う晴海に、思わず笑みがこぼれた。
「わかる。私もそう思う」
公式なんて、いったい誰が最初に見つけたんだろう。どうしてこれが正しいと決められたんだろう。
答えを覚えることはできても、その始まりだけは遠い空みたいに手が届かない。
「私、数学苦手」
「うん、まあ、俺も」
「でも、現代文とかのほうが苦手……かも」
「そう?なんで?」
そう言って晴海はペンを置き、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。
まっすぐな瞳が夏空の色を閉じ込めたみたいに澄んでいて、窓の向こうできらめく青よりもずっと近くで光っている。
その視線を受け止めた瞬間、喉の奥で言葉が小さくほどけた。