ヤンデレ腹黒な仮面作家は激重な執着溺愛を隠さない
9 パスコード



 閉店間際、耀理は退職願と有給休暇の申請を店長の宏に差し出し、驚かれた。
「急にどうして」
「一身上の都合です」
 ごまかしたものの、宏は苦い顔をしている。

「ここ最近いろいろあったのは聞いてるけどさ。辞めなくてもいいんじゃない?」
 慎一や紀香のことをほかの店員から聞いたのだろう。もしかしたら史弥からのクレームもあったかもしれない。
「迷惑がかかる前に辞めたいんです」
 解英社の営業ともめたなんて、本の納入が減ってしまうかもしれない。本の流通は独特で間に取次が入っているとはいえ、出版社との関係も大事だ。自分がいないことで慎一たちの気が晴れるならそうしたほうがいい。

「俺はうちの店の店員はすべて家族のように思ってて、大事なんだよ。古い人間のこういう発言は今の子には気持ち悪いかもしんないけどさ」
「気持ち悪いなんて思いません」

「異動とか、手段はあるじゃん。全国展開してるんだし、せっかくの正社員なんだし。北海道でも沖縄でもさ、ほかの店長もいい人ばっかりだし、星森さんならきっとやってけるよ。とりあえずあずかるけどさ、有休もとるでしょ。その間に冷静に考えてみなよ」
 店長はけっこう適当なところがある。仕事を丸投げされることもあるが、それは信頼の証だと思っているし、こうやって心配してくれる情に厚いところがあることも知っている。

「ありがとうございます」
 退職の気持ちはきっと変わらない、と耀理は思う。
 おすすめの棚に並べた本たち。店員たちはSNSを見たらメッセージに一発で気が付くだろう。そんなことをしておいてここに居残れるほど心臓は強くない。
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