after7は笑えない
Two∶ 🐜 🐜
『成世《なるせ》は1位を取りに行く』
来年の本屋大賞はこれで決まり。
努力を総括した1位には意味があるし、1位じゃないと成世秋奈《なるせあきな》は生きてる意味がない。
私には4歳上の美人な姉がいて、姉は端から端まで1位を総なめにしていた。
校内のミスコン1位、全県模試1位、放送部朗読コンクール1位、入学式と卒業式の答辞も選ばれたし、スポーツ大会の騎馬戦も、俳句大会も、仮装コンテストも箸で豆つかみリレーも全て姉が1位。
1位1位1位!一方で、その妹はコンプレックスのカタマリを携えて成長した。
私の好きな人も姉のことが好きだったし、私の功績は姉に何一つ敵わなかった。
でも姉が大学生になり、男に溺れ始めたら全てが一変。姉は落ちるところまで落ち果てて、姉の1位は全て私が奪ってやったのだ。
妹の下剋上は、姉が溺れたタイミングで果たされた。
「成世ちゃん!こないだの販売士試験満点だって!おめでとう〜!」
「さすが、派遣から正社員に昇格しただけのことはあるねえ。」
私の直属の先輩である峯田《みねた》マリア先輩(32)と、直属の上司である小日向《こひなた》課長(41)が、私の前で賛辞の言葉を投げた。
すかさず立ち、角度70度の当たり障りないお辞儀をする私。
「ありがとうございます。」
「それに、派遣であれだけの営業成績が取れるなんて前代未聞だよ。今後もOA機器担当の牽引役として期待しているよ。」
上司の期待の言葉には、どれだけの社交辞令と建前が込められているのか。
いいえ、期待される成世は素直に重圧だと受け止めておくのが正解。
「課長〜、あ・た・し!成世ちゃんの仕事ぶりは先輩であるこの私のお陰ですから〜。」
「そうかい峯田《みねた》くん。君の成績はヒラメのように平坦だけど、メンタルも何一つ変わらないのが凄いところだよ。」
「もう〜課長〜っ!あ、今日のお弁当、鰻弁当発注してもいいですかあ〜?」
「ははは。勘弁してくれ。私の小遣いもヒラメ並なんだよ。」
楽しそうに鰻とヒラメの話で盛り上がる二人。
その背中を確認して、私は表情一つ崩さず席に座る。座った反動で、でこ出しスタイルのボブヘアが前に垂れ下がり、隠れた口元が自然と緩む。
販売士試験満点?え、凄くない私?かなりやるじゃない、どう考えたって絶対受験者の中で1位じゃない?!
心のウキウキが止まらない。
でもそれを顔に出せない日中の私。ポーカーフェイスを貫くのがオフィス内での私なのである。