after7は笑えない

深夜でもヘーゼルイエローは発色がいいらしい。瞳を細め、私を訝《いぶか》しげに睨みつけるキラ君。痴漢が出そうな深夜の公園前。不審がられるのも頷ける。


「なんで?だって自分、No.1キャバ」

「でも。私、オンリーワン処女。」

「…(うるせーわ)ミウさんてさ、何歳なの?」

「黙秘権を行使します」

「…“処女”は言った癖に?」

「……」


私、確かにNo.1の肩書だったけれど。キャバ嬢として合法の仕事しかしていないし。


深夜の風に漆黒の髪を靡かせるキラ君が、自身の口元をなぞりながら息を吐く。


呆れるような、沈黙の間。


急に心臓が痛くなってきた。鉛のような目眩がする。動悸、息切れ、きつけに無敵だと噂のあれが欲しい。治る見込みを統計データで提示してくれたらさらにハッピー。


いつもみたいに、さっさと馬鹿にして罵ってくれればいいのに。 
 

「あのさ、」

「な、なにっ」


食い気味に、声が上ずってしまい。恥ずかしいよりもしんどくなって俯いた。


キラ君が、一歩一歩私の定位置まで近づいてくる。


同じ立ち位置にくれば、一緒にスポットライトを浴びるのだということを理解してほしい。二人してライトに照らされる姿は、シェークスピアの悲劇だか喜劇に匹敵するということも。


キラ君の靴音に同調するかのように、私のハートが粘り気のある前後運動を繰り返す。


「305万、全額くれるなら貰ってやってもいいですよ?」


へらっ。と、馬鹿にした笑みで私を見下す現役ホストNo.1。


“アホかお前。アホだな。”と忌々しい顔が言っている。見事優位に先手を打たれた。現役No.1を卒業したキャバ嬢は途方にくれる。


でもお金を払って買うのは私の方なのである。私が客側。私が優位に立たなくてどうするか。 

  
「305万円、きっちり耳を揃えて払ってやろうじゃないの。」

「処女とは思えない威勢の良さだな。」

     
「もうちょい可愛く言えんのかい。」と笑うキラ君の糖度が、少しだけ上がる。


オプションで“甘さ”と“氷の量”を選択できたらいいのにね。


「本気?本気で俺に抱かれるつもり?」

「ほ、本気だよ!」

「セックスの意味、分かってる?」

「広辞苑よりは詳しいと思う!」


処女というだけでも嫌がられるって分かってるのに。なんで私ってば、かわいくなれないんだろう。


キラ君がNo.1というだけで、どうにも下でに出られないのだ。トイプードルとアメリカンショートヘアに弟子入りして、プライドのない馬鹿なフリを学びたい。


「なんで、俺?」
 
「お金で解決できるから!あ、あと、素性を知らないまま後腐れなく終われるから!」

「ほーん俺じゃなくてもいくね??」

「な、慣れてそうだから!!そう、処女にも慣れてるベテランペテン師だから!!」

「ベテランってほどでもない。」

「認めるんかい…。」


スーツのポケットに手を突っ込むキラ君。多分その手は、ポケットの中の電子タバコを吸おうか迷っているのだ。

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