after7は笑えない


ポケットを叩いてもビスケットは増えないし、さまよう指で電子タバコに触れてもニコチンは含有量に含まれない。


ま、面倒くさいよね。いくら305万円といわれたって、No.1のキラ君からしたら大した額じゃないだろうし。どうでもいい処女に時間割くほど暇なら、ベテランペテン師を目指していることだろう。


別に断られたところで、「ですよねー!変なこと言ってごめんごめん!」というシナリオで返すだけだ。


強がりな私を前に、キラ君の指がポケットからぬるりと出されて。私の喉元が上下した。


「ファイナルアンサー?」

「ふぁ。ふぁいなるアンサー!」

  
親指を立てる私の震える手を、なんの迷いもなく握るキラ君。私の利き手を、連行するように囚える大きな指。


絶対に承諾してもらえないと思ったのに。瞬きの頻度が高くなる私は、彼の手の言うなりになるしかなかった。


ここから305万円案件は発生しているらしい。握られた指と指の間は強くて柔らかい。ちゃんと私は、手をつなげているのか。大した経験がないせいか、それすらも不安になる。


「深夜に空いてるとこなんてラブホくらいしかないけど。いい?」
「ん。いいよ。」 


いつもの帰路とは反対方向へと歩いていく途中も、キラ君の糖度は上昇していた。


憎まれ口を叩くわけでも、面倒くさそうに嫌々な素振りをするわけでもない。何も言葉を発せず、歩幅を合わせてくれている。


それだけで糖度が上がっているとか、どれだけキラ君のハードル低いんだ私。



今どきのラブホって駅前のホテルとそう変わらないらしい。QUONやMo-mentみたいな派手さがない。仄暗い暖灯が、ひっそりと辺境地に佇む魔王城を下から照らしている雰囲気だ。 


ひと気のないエントランスに入っても、キラ君の足取りは至ってリズムを崩さない。


私の足取りは、緊張のあまりどう表現していいのかよく分からない。 


  
「部屋のカギが開いた時点で、テッテレー♪みたいな効果音が鳴ったらミウさんを殺るかもしんない。」

「キラ君、今年の騙された大賞に出れるほど人間が形成されてないじゃん。」 

「人間失格なの俺?」

「うん。」


カードキーにより開けられた錠が赤から緑に点灯して、キラ君の後ろ姿が、“もう後戻りできんよ。”と私を諭してくる。


猶予なんて、あってないようなもの。


「その人間失格者に処女を捧げるそっちはなんなの。」


ドアが開けられて、腕を強く引かれて。そのまま広いベッドへと投げるように倒されて。


一連の作業が目まぐるしく描写を刻んでいく。


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