妹の身代わりに泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜

「エーヴァ、君がいなくなることなど私は考えられないよ」

 初対面の時の無愛想なアダンはどこへ行ったのやら……私は彼に後ろから優しく抱きしめられる。
 腕の中で身じろぎする私は、段々と頬に熱が籠るのを感じる。羞恥心も手伝って彼の拘束を抜けようと、小刻みに動くのだけれど……彼はさらに腕の力を強めた。まるで私を逃さない、とでも言わんばかりに。

「愛しているよ、エーヴァ」

 これは私も何か言わなければ、手を離してもらえそうにない。この状態を他の人に見られるのが恥ずかしいのである。
 ここは彼の執務室。今は幸い人がいないとはいえ、彼の使用人や文官の者が頻繁に訪れるのだ。

 こうなってしまうと、彼は私が愛の言葉を告げるまで話さないのが定例だ。けれども、私はまだ自分の感情を言葉にすることに慣れていないため、狼狽えたり、照れたりしてしまうのだ。
 
 他人に見られるか、愛の言葉を紡ぐか――。
 
 私は意を決して言葉を紡ぐ。
 
「はい……私も、今、とても幸せですわ……」

 『愛してる』の言葉は照れが勝ってしまい、まだ言えなかった。それでも私は、彼に喜んでもらいたいと思ったので、私なりに言葉にしたつもりだ。
 私の言葉を聞いて、アダンの拘束が一瞬緩んだ……と思いきや。
 その後、更に抱擁が深くなった。どうやら、私の言葉が非常に嬉しかったらしい。

「あー! アダン様! エーヴァに抱きついてる! ずるいよー! 僕だって!」

 ――最終的にアダンに離してもらうことができず、ノアに見つかってしまった。彼にも抱きつかれ……その姿をアダン付きの文官に見られてしまい、赤面したのは言うまでもない。
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