妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
「アダン、新しく来た子は大丈夫そう?」
「今は疲れて眠っている」
「そうだよね。彼女死ぬ寸前だったもんね。助かって良かったと思うよ」
 
 困惑した表情を見せるのは、背中にある純白の翼を広げ、デューデ様と同じ金色の真っ直ぐな髪を持つ男、セファー。
 彼はアダンが管理している王宮の書庫で、書物の管理を任されている。また、『空気』を作り出す魔道具の修理も請け負っていた。
 
 セファーとは数日で顔を合わせる時もあれば、時には百年ほど顔を見せないこともある。彼は女神デューデの眷属であり、天使と呼ばれる存在だからだ。
 以前百年以上顔を見せなかった時があった。その時アダンが心配して彼の暮らす場所へと赴いたことがあるのだが……丁度その時起きて来た彼は「少し長く昼寝しちゃった」と言っていた。どうやら時間感覚がそこらの人とは違うのだ。
 
 街の人たちは女神デューデを信仰しているため、眷属であるセファーのことも崇めている。そのためか、頭を下げられるのが苦手な彼は、滅多に書庫から出てくることはない。
 最初は敬語で話していたアダンだったが、数百年したところでセファーから敬語を取るようにお願いされ、今に至っている。
 
「そういえば、ちゃんとこの街のことを説明したの?」
「ああ、レナートが――」
「説明したの、アダンじゃないんだ! まぁ、でも……アダンだと説明が簡素すぎて分からないかもね……」

 アダンは最低限しか話さないからなぁ、とセファーは肩をすくめた。そう、彼は口下手だ。それを本人も分かっているので、余計な話をせず簡素に告げるよう心がけている。
 だからその部分を補っているレナートをアダンは重宝していたのだ。

「受け入れてそうだった?」

 心配だ、という様子でセファーはエーヴァのことを訊ねる。アダンは彼女の様子を思い出して、肩をすくめた。
 
「まあ仕方ないか。アダンも最初は耳を疑っていたもんね」

 アダンはそう笑いながら言うセファーへと、遠慮なく何度も頷いた。
 
 最初、アダンもこのことをセファーから教わったのだが、エーヴァと同様にこの事実を鵜呑みにすることができなかった。
 彼もエーヴァと同様の環境で泉へと飛び込んだ者だったのだ。彼もこの街の者に助けられ、生き延びる。最初はセファーの話を疑ってかかっていたアダンだったが、女神デューデの降臨で完全にこの話を受け入れた。
 その時に加護を与えられたアダンは、この街で二千年ほど暮らしている。この街の中限定ではあるが……加護により不老不死となったアダンは、女神デューデによって国の管理を任されているのだ。この王国の人々は女神デューデの気質を受け継いでいる者が多く、穏やかな人々が多い。彼はそんな人たちの中で過ごすことで、過去受けた心の傷はすでに癒えている。
 
 エーヴァを見た時、過去の自分を見ているようだった。
 虐げられるのが日常となり、常に心の中では人に怯えていた自分。アダンが無口なのは、その名残でもある。意思表示が得意ではないのだ。
 顔には出ていなかったが、小刻みに震えているエーヴァ。アダンは胸の奥がひどく痛む。
 
 いつの間にか過去の自分に重ねていたことだけではない。彼はエーヴァが泉へ入水する瞬間を見ていたのだ。それもあって、エーヴァを助けたい、という彼の気持ちに拍車をかけていた。
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