訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
目覚める直前に夢を見ていた杏璃は、寝ぼけて側に控えていた央輔の腕をぐいと抱え込み引き寄せてしまう。意図せず推しそっくりな央輔に組み敷かれ、自ら抱きつく体勢となっていて大いに慌てる羽目になる。
「きゃぁ……!」
狼狽えるあまり、央輔の身体を突き飛ばす勢いで押しやった。
央輔は溜息交じりにぶつくさと呟いた後で、医者らしい台詞を口にする。
「自分から抱きついておいて悲鳴はないと思うが……病人相手に言っても仕方ないか。具合はどうだ? どこか痛んだりしないのか? 例えば頭とか、どうだ?」
その声に意識と目とを向けると、央輔はこちらに身を乗り出し、えらく真剣な眼差しで見つめながらゆっくりと迫ってくる。氷のプリンスに激似の央輔を前に、見蕩れてしまった杏璃はぽーっとしてしまう。
だが央輔との距離が縮むにつれ、緊張感が舞い戻ってくる。
(何だかお医者様みたい。あっ、そういえば美容外科医って言ってたんだっけ。それにしても、よく似てる。ど、どうしよう? またドキドキしてきちゃった)
杏璃は、どんどん高鳴っていく胸を押さえながら焦っていた。すると、央輔がずいと一気に距離を詰めてきた。
(もうダメ。心臓が飛び出ちゃう)
ぎゅっと瞼を閉ざし生命の危機を感じている隙に、央輔に手首を恭しく持ち上げられてしまう。
(――ま、まさか、手の甲にキス⁉)
心拍数がズキューンと跳ね上がった次の瞬間、央輔の落ち着き払った低い声音が耳に届いた。
「脈は速いが、頭も打ったようでもないし。貧血だとは思うが、念のため、一度主治医に診てもらうといい。どうした? 顔が紅いが、熱でも出てきたか?」
(き、キスされるのかと思っちゃった。は、恥ずかしい!)
キスされると勘違いしてしまったなんて、央輔に知られるわけにはいかない。杏璃は早くこの場から立ち去ろうと、すっくと立ち上がる。
「だ、大丈夫です、はい! ありがとうございます。きょ、今日はこれで……」
帰ります、そう口にして逃げ出すつもりが、柔らかなベッドのスプリングが沈んだかと思ったときには、足を取られてふらりとふらついてしまう。
「わぁっ!」
そこに焦った様子の央輔から制止の声が放たれた。
「あっ、待て。急に立つなっ!」
ベッドから落ちるものだと覚悟していたのだが、一向に落ちる気配がない。
代わりにあたたかなものに包み込まれたかのような感触を覚える。
不思議に思った杏璃が目を開けると、央輔のあたたかな腕にしっかりと包み込まれていた。
しかも、見た目は推しである氷のプリンスそのものである。
本日二度目の限界を迎えた杏璃は、もののみごとに呆気なく意識を手放し天国へと旅立っていたのだった。