手を、つないで


 打ち上げは明日。
 今日は、彼女は定時。俺は残業。自分の仕事がある。一緒に帰りたかったけど仕方ない。
 定時直後、彼女からメッセージが来た。

 ーーー今日は、残業ですか?

 ーーーはい、明日の打ち上げに出るので、今日いろいろやります

 既読は付いたけど、返事はない。
 歩いてる途中かな、と思って作業を再開した。

 数分後、部屋に誰かが入ってきた。
 見たら、彼女だった。
 すすっと俺のところに来る。
「あの、差し入れです」
 そっとキーボードの横に置いたのは、コーヒーチョコ。前にもらったのと同じ。個包装を3つ。
「お手伝いのお礼も兼ねて、です」
 真っ赤な顔して。小さな声で。
 でも笑顔で。
 愛おしい。他の人がいて良かった。でなきゃ抱きしめてたかもしれない。
「……ありがとうございます。いただきます」
 俺も笑顔を返した、つもり。何しろ『冷製鉄仮面』だから、笑顔をちゃんと作れる自信がない。
「残業、頑張ってください」
 そう言って、彼女は離れていく。引き留めたかったけど、耐えた。
 彼女はそのまますすっと俺の前、高井戸のところに行った。高井戸も、俺の手伝いのために残業だ。
「高井戸さん、差し入れです」
「えっ、おー嬉しい。ありがとう中森さん」
「高井戸さんも、残業頑張ってください」
「頑張る頑張る」
 笑い合う高井戸と彼女。ちょっともやっとしたけど。
 モニターとモニターの隙間から見えた。彼女が置いたコーヒーチョコは1つだった。
 もやもやは消えていった。……俺は小学生か。
「中森さん、俺も残業です〜」
 高井戸の前の席から佐伯が情け無い声を出す。
 彼女は笑ってコーヒーチョコを佐伯に渡した。1つ。
「佐伯さんも頑張って」
「ありがとうございます!頑張ります!」
 お疲れ様です、と言いながら、彼女は帰って行った。
 後で、メッセージを送ろう。

 残りの作業は快調に進んだ。
 明日の打ち上げには影響無さそうだ。




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